認知症介護の仕事を辞める決意をくつがえした意外な出来事

「心の中でだったら、いくらでも悪態をついていい」。認知症高齢者と日々向き合う介護職員の本音とは?_img0
 

排泄物をプレゼントされる、喧嘩に巻き込まれる、平手打ちを喰らう、さらには顔に食べ物を吹きかけられる。認知症介護の過酷さに心をすり減らしていった畑江さんは、入職から2週間ほど経過したある日、ついにグループホームを辞めることを決意します。そのときの彼女は、キヨエさんという利用者に激しく腕を叩かれても怒りを感じないほど疲れ果てていました。しかし、そんな畑江さんに予想外の出来事が起こります。いつもは物静かな元小児科医の利用者・ヒメコさんが、不意に彼女の手首をつかんできたのでした。

「ヒメコさんは、ジッと私の顔を見ている。何か言いたいことがある、といった表情だ。彼女は意思の疎通はまあまあできるものの、認知症の進行により普段は発語がほとんどない。その上挙動も静かな人だったので、実を言うと印象が薄い利用者だった」

 

ギュッと眉間に皺を寄せて押し黙っているヒメコさんに対し、畑江さんは「どうかしましたか」と2度も問いかけます。すると、ヒメコさんはキヨエさんに叩かれて真っ赤になったところを、一生懸命さすり始めたのでした。ヒメコさんの行動に感激し、彼女の顔が見えなくなるほど涙を流した畑江さんは、このとき「ヒメコさんを看取るまでは続けようと。それまでは、何があっても絶対辞めない」と決意します。

「事務職からの転職活動中、私は看取り対応をしていないグループホームの面接もいくつか受けた。しかし最終的には、祖父を看取ってもらったという経験から、看取り対応をしているこの施設を選んだ――そのときの気持ちを、はっきりと思い出したのだ」