会社を辞めるほど重いPMS


映画『夜明けのすべて』(瀬尾まいこ原作)は、PMS(月経前症候群)に悩まされる藤沢さん(上白石萌音)とパニック障害を抱える山添くん(松村北斗)が主人公の物語です。

藤沢さんは、PMSの症状がとても重く、自分でもコントロールが効きません。生理で目眩がしたため、雨に打たれながらベンチで休んでいるところに、警察から声をかけられます。声をかけられた藤沢さんは、朦朧としながら鞄の中を漁り、中身を投げ捨て始め、警察に保護されることになります。彼女は、PMSの影響で、イライラして人に当たってしまい、怒りがおさまらなくなってしまいます。その症状を軽くするために飲んだ薬の副作用で勤務中に猛烈な眠気に襲われ、会社で寝落ちしてしまい、新卒で入社した会社を数ヵ月で辞めることに。
 

 


自分の心と身体なのにコントロールできないこと、が共通点のふたり


藤沢さんの転職先、栗田科学の同僚の山添くんは、パニック障害で前の会社を辞めざるをえなくなりました。藤沢さんと山添くん。ふたりの共通点は、「自分の心と身体なのに、コントロールが効かないこと」。

ふたりは、最初はどちらかというと馬が合わないタイプでした。山添くんはぶっきらぼうで愛想がなく、藤沢さんはPMSの時に山添くんの言動に怒りが爆発。キレられた山添くんは何がなんだか分からず、戸惑います。

ある日、山添くんが会社で発作を起こし、藤沢さんは山添くんがパニック障害であることを知ることとなります。その日を境に、ふたりの交流が始まります。このふたりの関係が、なんとも絶妙なんです。

自分の心と身体なのにコントロールできない。映画『夜明けのすべて』が示した、そのままで包摂される組織という救いのかたち_img0
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

お互い、自分の心と身体がどうにもならない、社会の普通に乗れないという共通点を通じて、心は近くなっていきます。ある日突然、藤沢さんは電車に乗れない山添くんのために、自分の使っていた自転車をプレゼントし、徒歩圏内が生活の全てだった山添くんの世界が広がります。

「お互い無理せず頑張ろうね」と言った藤沢さんに対し、山添くんは、パニック障害とPMSでは症状も困難も全く違うのでは、と言います。そんな山添くんは、興味があるのは藤沢さんではなくPMS、なんて素っ気ないことを言いながらも、PMSについての本を読み、理解を深めていきます。