「誰にも言わないで」
 

「美弥ちゃん、秘密の計画に乗ってくれてありがとう! パパやほかの人には内緒にしてくれたよね?」

「もちろん! 莉子ちゃんがパパのお誕生日にサプライズパーティをしたいってこと、私だけに相談してくれて嬉しかった。一緒に盛り上げさせて」

火曜の14時過ぎ。郊外行きの急行電車に乗りこんで、並んで座る私たちは本物の親子に見えているに違いない。莉子ちゃんは小学4年生にしては小柄なほうだと思うが、おしゃべりは達者だった。

パパの古い携帯から連絡先を調べたの、とショートメッセージが届いたのが今朝。信二さんは海外に出張に行っているから、私は結婚で同居する前に弾けようと、この1週間毎日飲み歩いていた。そして二日酔いのぼんやりした頭で、莉子ちゃんの少々面倒な「お願いごと」を聞いてしまった。

――まあでも、心を許し始めてくれるんだから、今はこの流れを大事にしなきゃね。

 

莉子ちゃんの提案は、パパのサプライズバースデーパーティ@葉山の別宅。今度の金曜に帰国する信二さんは、その日45歳の誕生日だった。莉子ちゃんの計画は、彼が海外出張中に、私と莉子ちゃんが葉山をデコレーションしておいて、プレゼントを設置しておくという念の入ったもの。

『これまで、パパと美弥ちゃんのこと、応援してなくてごめんね。莉子、ちょっと寂しかったの。でもその分、パパのバースデーでは、私たちがすっごく仲良くなったって見せてあげたいの』

これまで面倒くさいと思っていた連れ子の彼女が、急に可愛らしく思えてくるから不思議だ。

私は子どもが好きじゃないし、莉子ちゃんとうまくやれるなら、高齢出産になってまで実子を生まなくてもいいかも。せっかく好き放題できる裕福な人妻の地位を手に入れたのだから、育児にかける時間は最小限がいい。

 

とにもかくにも、私と莉子ちゃんは、再婚を前に仲良くなることに成功した。そのために普段はあまり使わない別荘にこっそり彼女と行くくらい、大した話じゃなかった。派遣の仕事はプロポーズをされてからすぐに辞めてしまったから時間だけはたっぷりある。

「ねえ莉子ちゃん、駅についたら、とりあえず夕飯たべない? あっちのおうちには何も食べるものないだろうし、1泊するなら買い出しもしようか」

「いいの、大丈夫! 今日4時間授業で、給食食べたばっかりでお腹空いてないし。それより少しでも早く行って支度したい。おばあちゃんにはお友達のおうちに行くって言ってあるからお夕飯の前までに帰らないと」

よかった、正直言って一晩中彼女をもてなすほど、まだ人間ができていない。今日は素早く東京に帰ることにしよう。

私はほっとして、シートに深く腰掛ける。莉子ちゃんは推理小説を取り出して読み始めた。私はこれ幸いと、到着までの1時間弱、眠ったふりをすることにする。