日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイのタイトルは、「人間は2種類にわけられる〈前編〉」です。さて、あなたはどっち側?

「いただきますに全身全霊を注いでいざゆかん!」痩せの大食いゆえの苦労と地方公演の楽しみとは【坂口涼太郎エッセイ】_img0
 

人間は2種類にわけられる。体重計にのる人間と、のらない人間だ。
あなたはどちらですか? ご自宅に体重計はございますか? 私の家には体重計がございません。もともとあまり体重が増減しないというか、いくら食べてもカリカリボディー。食べた分の栄養というか体積というか質量はどこへ消失してしまったの? 血となり肉となると聞いておりましたけれども、ならないんですけれども、と虚空へ呼びかけてみても応答はなく、どれだけ言葉を尽くして説明しても、「いくら食べても太らないんです、てへぺろ」というようなニュアンスの小自慢、小マウントのような伝わり方になってしまい、「へーいいなーうらやましー」と棒読みで発音するしかない相槌をかつあげしている気分になるような体質なのです。
 

 


よく言う痩せの大食いとは実在しており私のことで、生きているだけでカロリーを消費、呼吸しているだけで脂肪を燃焼、ちょっと温かいものを食べるだけで頭皮から洪水が発生し、激流となってナイアガラの滝のように顔面という断崖を落下していく。

「あんた大丈夫? 滝行してるん?」「うん、滝行バイ・マイ・セルフ」と誇らしげに返答してみても、激辛を売りにしているわけでもない店内で一人だけずぶ濡れの人間がいる違和感が面白いのか友人たちはとなりで黙々と食事している滝をスマホで撮影、「すごいすごい流れてる、川ができつつある、名付けな」と、楽しんでいるのか怖がっているのかわからないようなテンションでふがふがしている。

ふがふがしてくれているのならまだこちらも安心平然なのですが、私はときに俳優。プロのメイクさんがお化粧を施してくれてお昼休憩、「今日はオーベルジーヌのカレーでーす、辛口でーす、やっぱりオーベルは辛口だよねーやりー、いただきまーす、おいしーい、からーい」と幸福な食卓。「休憩後もがんばろー」なんて言いながらみんなでわいわいと食事していたら私の毛根からは例のごとく天然水が湧水して噴出、小川はやがて一つになり、大河となって断崖絶壁を落下、見事な滝となってオーベルジーヌのルーへ流れついて大海となるのであった。

「あれ、坂口くん、あれ、ずぶ濡れだけど、あれ、頭上に積乱雲でも発生して、あれ、ゲリラ豪雨とかそこだけ降ったっけ、ごく極地的に、というか極人的に、私たちはからっと快晴でしたけれども、あれ、てかメイク、あれ、私、施しましたよね? 施したお化粧品、整髪料は今いずこへ? ほとんどゼロの状態に、あれ、すっぴん以上のすっぴんになってはらへん? あれ?」という顔面蒼白なヘアメイクさんを目の前にして「すんません、すんません」とハンケチで源泉を塞ぎながら平謝り。どうして私はいそいそとオーベルジーヌ辛口を食べてしまったのだろうかという後悔の念は湧いても塞げず、体内でどろどろになって凝固するのであった。

 
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