でも、実際のところ、なかなか「はて?」と言い出せないのが現実。納得がいかなくても「はて?」ではなく「はい」と飲み込んでしまったほうが素直で物分かりがいいと可愛がられるのが世の中というものです。だから、みんな喉元まで出てきた「はて?」を必死に飲み込んで、「はい」と受け入れてきた。それが、弱者とされる人たちの処世術だったのです。
でも、そうやって「はて?」を「はい」に変えてきた果てに何が待っていたのか。答えは、強者にとって都合のいい社会です。
『虎に翼』の舞台は、今からおよそ100年前。日本国憲法が制定されるずっと前の話です。当時の民法では、婚姻状態にある女性は法律的に「無能力者」とされ、財産は夫が管理。働くことさえ夫の許可が必要でした。
当時のことを思えば、今はずっと自由が認められるようになったかもしれません。でも、本当にそうでしょうか。
日本のジェンダーギャップ指数(2023年)は、先進国としては最低レベルの146ヶ国中125位。国会議員に占める女性の割合は15.6%(2023年3月末時点)、190ヶ国中140位です。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、男女の賃金格差は、日本は21.3%(2022年)。OECDの平均が11.9%だったことを考えると、2倍近い開きがあります。
また、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は年間12.2万件(2022年)。その9割が女性です。
つまり、男女平等と謳いながらも厳然と女性差別が残っているのが今の社会。女性は、強者がつくった仕組みの中でずっと不利な戦いを強いられ続けてきたのでした。
そんな状況に対し、かつては女性らしい「しなやかさ」で対抗するのが賢明だとされてきました。あるいは、機をよく見る「したたかさ」で勝ち残るのが、女の戦い方だとも言われてきました。
けれど、よく考えなくても、そんなのどちらもバカらしい話。なぜ女性だからといって、「しなやかに」振る舞い、「したたかに」出し抜かなければいけないのか。私は私のままで、真っ当に評価される。それが当たり前。寅子の「はて?」の果てにあるのは、そんな道です。
そして、確かな知識と論理で正当に自分の権利を掴み取っていく寅子の生き方が、100年後の社会を生きる私たちへのエールとなっている。だから、『虎に翼』を観ると、朝からパワーをもらえるのです。
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