こんにちは、エディターの昼田祥子です。
前回に引き続き、今日も父の話を書きたいと思います。
布団をあげるのもしんどいというほど父の体力は落ち、頬もこけ落ち、見るからに病人でしたがボランティアの仕事は相変わらずなんとかこなしていました。12月に入り、抗がん剤治療のため入院することを決めたのは父でした。きっと新薬を試せることに生きる希望を見い出していたのだと思います。
家族としてその判断がいいのかどうかわかりませんでしたが、家にいれば動き回り無茶するだけ。仕事から引き離し、治療に専念できる環境に無理矢理でも押し込んだほうが、今の父にはいいかもしれないと思うことにしました。
入院中は面会禁止のため、一度も会えず、あぁ父はどうしているだろう。
元旦に新年の挨拶をしようと携帯を鳴らしてみました。
「さっちゃん、お父さんな、入院中に断捨離リストを作ったんよ。全部をやるとなると3ヶ月はかかると思うけど、まぁやってみるよ」
いつもと変わらない調子で聞いてもないのにいきなり今年の目標を宣言した父。ボランティアの仕事も全部手放しなさいよ、と言ったら「うん、そうするよ」と。でもさ、もう遅すぎるよ、今さら終活!? と思ったけれど、退院したら手伝うから一緒にやろうねと言って電話を切りました。
その後、父が一時退院した日に合わせて帰省しました。次の日の朝には病院に戻るため少しでも会えたらと娘を連れて帰りましたが、せっかく会えた孫と団欒を楽しむこともなく急いで出かけようとする父。
そもそも何かしていないと落ち着かないほど活動的な人が病院にしばらくいて自由がない日々を過ごし、1日でも外出許可がおりならばえらいことになるわけですよ。その反動で溜まっていたTODOリストをこなそうと動きたくて仕方ないわけです。「大人しくして」という母の忠告に耳を貸すはずもなく……。
で、何をやったかですが、まずは散髪に行く、病院で仕事をするためのコピー機を買いに行く、携帯ショップで端末操作を教えてもらう、剪定業者に依頼に行く、不幸があった近所の人の香典を届けに行く……。
なぁお父さん、これ全部本当にやらなきゃいけないこと? せっかく半日程度しかない貴重な時間に、わざわざ出向き、病気の体を押してまでしなきゃいけないことなの?
結局、断捨離が終わっていない父は物事の優先順位をつけることなく、すべてを満遍なく、片っ端から同じ力でやろうとしていました。キャラクターの違いももちろんあると思いますが、私だったらこうはしない。何を捨てられるのか、そして自分にとって一番大事にしたいことが何かをまず見極める。
「何がしたいか」ではなくて、「何をしなくていいか」から考えるのです。そうやって限りあるエネルギーと時間を、自分が大事にしたいところに一極集中させていく。1時間を満遍なくこなしていくことにあてるか、一番やりたいことに力を注いでいくか、同じ1時間でも圧倒的な違いが出るわけで、そりゃ人生が変わるよね、っていう話なんです。(私の本のタイトルにもなっていますけど、言いたいのは詰まるところこれなんです。モノを捨てることがゴールじゃないですよ、ってことなんです。)
今さら言ったってどうしようもない。
とにかく時間があるかぎりやるべきことをやろうと、父は一睡もせずにパソコン作業をし、翌朝布団から起き上がれないほどに疲弊していました。そりゃそうだ、徹夜なんて健康な人がやってもダメージを喰らうもの。抗がん剤を打っているような人がまともでいられるはずがない。我が身構わず、この期に及んでも懲りない父に、母は怒りをぶつけ姉も声を荒らげた。
「お父さん、何やっとるんよ! お父さんがやっとることは、棺桶に頭からダイブしたのと同じじゃ! 今までせっかく治療してきたのが水の泡じゃろうが!」
あれこれ動けた人が一晩にして変わり果て、しかも自殺行為によってですよ。この人は生きたいのだろうか、死にたいのだろうか。私は怒りを通り越して、ただただ呆れ、掛けたい言葉も見つからず。病院に戻る車で、高熱のせいで体を大きく震わせている父にブランケットを掛けてあげたのが最後のやりとりでした。
翌朝、父はあっけなく死んだ。
あとで聞いたら、一時退院とはいえ実は絶対安静のお達しがでていたのだとか。
断捨離リストだけ作って終活せずに死んだ父。それが家族にどんなダメージを与えるのか、このあと私は身をもって知ることになります。寝込むこと3日。こんなしんどさを残された家族に味わせるわけにはいかない。
私は、40代からの「プレ終活」をはじめることにしたのです。
<新刊紹介>
『1000枚の服を捨てたら、人生がすごい勢いで動き出した話』
著・昼田祥子
¥1540(税込)
講談社
Amazonはこちら
楽天ブックスはこちら
「朝日新聞」「CLASSY.」「リンネル」「日経WOMAN」など、各メディアで話題! たちまち5刷の話題作。
クローゼットに収納術はいりません。
「クローゼット=本当の自分」にできれば、勝手に整うものだから。
ただ、自分の心地よさに従うこと。
本来の自分を生きるという覚悟を決めること。
捨てられずに人生を詰まらせているものに向き合い、手放していけたとき、人生はすごい速さで自分でも思いがけない方向に進んでいきます。
1000枚の服を溜め込んだファッション雑誌編集者の人生を変えた「服捨て」体験と、誰でもできるその方法を伝えます。
着用・文/昼田祥子
構成/出原杏子
- 1
- 2
Comment