美しさに気づくのは、その人の中にあるから

美しいと感じられるのは、その人の中に既に美しさがあるから。世界は今日のあなたの心を移す鏡【詩人・最果タヒ×松本千登世】_img0
『落雷はすべてキス』(新潮社)あとがきより。

松本:落雷はすべてキス』のあとがきを読んでいたら、ちょうど空がピンクに染まっていて虹が出ていたんです。このあとがきがフワーっと心に入ってきて“すごく新しいな”と感じて。実は、最近、新しいという言葉が好きじゃなくて。新しいだけが全ての情報で価値があるものなの? 明日にはもう古くなるの? 耐えられない……と思ってた時期があったのだけど、タヒさんの言葉を読んで、ピンクの空を見て、思い直しました。
単純に「わー、綺麗」だけじゃない、ちょっといいことがあると思いながらも、綺麗さと重苦しい空模様が同居していて、その違和感も楽しめるような新しい気持ちになったんです。

美しいと感じられるのは、その人の中に既に美しさがあるから。世界は今日のあなたの心を移す鏡【詩人・最果タヒ×松本千登世】_img1
『顔は言葉でできている!』より。

最果:綺麗なものを作る、というより、その人がすでに見ている何かの綺麗さに、その人が気づく瞬間が作品で作れたらいいなと思っています。美しさに気づくのは、その人の中にその美しさがあるからだと私は思っていて、だから、美しいものをその人に作者として完成させて手渡すというより、その人の見ている美しさにそっとピントを合わせていくような、そんな作品が作れたらいいなぁって。言葉って面白くて、それぞれ生きている場所は違っても、「朝」って書けば、その人の朝にその人の中で繋がっていく。同じものを見ていなくても、その人の見ている景色に言葉は繋がっていけるんです。書いた言葉が、読んだ人の生活に息づいて、その人の見た景色に関わっていくことが私にとっては理想なので、嬉しいです。

松本:言葉の煌めきって、受け取った人が煌めかせるものなのかもしれませんね。

最果:そういう瞬間があるって信じて書いていて、信じられるから書けているのかもしれません。読者の方一人一人の瞬間は、私は知りようがないけど、そこに繋がってはいる1つのスイッチを押して……、読者が心に記憶させてきたことを借りて、詩を完成させている気がします。