「実体験を書いていて辛くないか?」の答えは「まったく辛くない」

本を出したら「想像もしなかった奇跡」が起こった。エッセイを2冊出版したライターが感じた、本が持つ力_img0
貧困家庭で育った筆者の体験を綴った1冊目のエッセイ『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)。大好きなイラストレーターのろるらりさんが描いてくださった装画を、デザイン見本で拝見して感動。

巷でまことしやかに囁かれている出版に関する都市伝説があります。それが、新人はSNSのフォロワー数が3万人以上いないと出版できない、前作が売れないと次は出版できないというものです。私もいろんな人からこの噂を聞きましたが、実際はそんなことはありません。

私はSNSのフォロワーは少なかったですが出版しましたし、1冊目は重版しませんでしたが2冊目は出せました。もちろん、フォロワー数が多い方が売れる確率は高くなります。でも、フォロワー数を重視するかは出版社や編集者によりますし、フォロワー数の多さはいい文章が書けるか、いい本が作れるかには関係がありません。前作の売れ行きは、(本が出版できるかが決まる)企画会議ではもちろん重要な判断材料となりますが、前作がヒットしていなくても次の本は出せます。噂に惑わされて諦めるのはもったいないと思います。

私は、本の内容が自分の体験がベースで、かつ暴力や貧困、いじめや不登校といった内容など、ヘビーなものが多いので、よく「書いていて辛くないか」という質問をされます。意外に思われますが、私はまったく辛くありません。

脳の中にもう一人の自分がいて、過去の記憶をレコーディングしているような感覚です。そこに感情は伴わないというか、ひたすら作業をする感じ。なので、書いているときはなにかに乗っ取られたみたいに、ものすごい勢いでひたすら記憶を書き起こすのみ。何かが降ってくる、みたいな感じです。

著者によっては、構成を練って計画的に書く人もいますが、私は筆の赴くまま、感覚的にガ――――ッと書くタイプなんです。自分で書いたものを読んで、「へー!」みたいにびっくりすることも多くて、自分が書いたとは信じられないことが多いです。

 

書く力や勇気をもらえるのは、何より「読者」の言葉

本を出したら「想像もしなかった奇跡」が起こった。エッセイを2冊出版したライターが感じた、本が持つ力_img1
写真:Shutterstock

本を書いてよかった、と思えるのは、やっぱり読者の感想を読んだときです。本が出るまで、読者は編集者だけ。とにかく本を書く作業って、本当に孤独なんです。自分の家で、孤独な環境で書いた文章が、お会いしたこともないたくさんの方の手元に届いて、私の人生や脳内の景色が、いろんな人の目に映る。めちゃくちゃ不思議な感覚です。

1冊目を出した直後、「新聞に載っていますよ」とフォロワーさんが教えてくれて買いに行くと、でかでかと本の紹介と、著者への叱咤激励が書かれていて、すごく励まされたことがあります。本を読んだ人の感想やメッセージで、著者は生かされ、また書く力や勇気をもらうんですよね。また、出版社に手紙を下さる方もいます。そういった感想やメッセージを読むときが、心から書いてよかった! と思える瞬間です。

レビューを読んでいつも思うのですが、本当にみんな文才がすごい。自分の本を読んでこんな感想が出てくるんだ! と感動させられます。著者にとってなにより嬉しいのは読者から感想をもらえることなので、みなさんも、本を読んでもしなにか感じることがあったら、ぜひ、レビューを書いてみてください! 著者は本当に泣いて喜びます。