楾 まずは「知る権利」(21条)を使って、政治や世の中の動きを知ること。そのうえで、表現の自由(21条)を使って意見を述べたり議論したりすること。そして、「選挙権」(15条)を使って投票すること。これらの権利は、いわば民主政治の「道具」です。道具は使ってナンボです。これらの権利を使って私たちが政治にかかわっていくことで、私たちの人権を守る政治が行われるはずだ、というのが民主主義の仕組みです。でも、せっかく憲法が保障している権利をあまり使っていない方が多いのではないでしょうか。

渥美 せめて投票には行かなきゃですね。

 そうですね。投票に行く人も、「うちは代々〇〇党」「主人に聞かないと」とか、「所属する組織の上の人の言うとおりに投票」という人もいて「組織票」という謎の言葉もありますね。家とか組織が投票するのではなく、一人ひとりが投票するんですよ。組織が構成員に投票を呼びかけるのも自由ですが、組織の構成員がどこに投票するかも自由です。誰かに言われたとおりに投票しなくていいんですよ。どこに投票したかは、黙っていればわかりません。憲法にそう書いてあります。「投票の秘密」の規定です。

【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】とりわけ重要な“条文”と、その“意味”とは? 『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。<日本一わかりやすい憲法の授業②>_img0
 

15条4項すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
 


楾 この規定は、一人ひとりが自分の意思で自分の一票を投じられるようにする趣旨です。ふだんから、知る権利を使って政治の動きを知り、表現の自由を使って議論などして考えを磨いていなければ、自分の一票を投じることはできないでしょう。

渥美 組織票ってこうしてみると、まさに憲法の根っこである「個」の否定ですね……。

立原 権力者は、国民が憲法を知らず、「自分の頭で考えること」を放棄しているほうが都合がいい。それでここまできちゃったってことですね。

 学校教育のあり方に大きな問題があると思います。憲法って、学校で教わりましたか?

立原 昔、前文を暗記させられました……。

 学校でやることって、そんな感じですよね。主権者を育成する仕組みになっていないのではないでしょうか。憲法って暗記しなくていいんですよ。条文なんて、ネットでも見られるんですから。

私は生まれも育ちも広島で、学校ではことあるごとに「平和教育=原爆は悲惨だ」と教わってきましたが、肝心なところが抜けているのではないでしょうか。平和を維持するために、私たちは何をすればよいのでしょうか? 祈ったらよいのでしょうか。折り鶴を折ったらよいのでしょうか。それも結構ですが、そればかりで選挙に行かないのではダメでしょう。でも、広島の国政選挙の投票率って、2010年以降の都道府県別投票率ランキングを見るとほとんど40位以下、良くて37位なんです。(※2010年の参院選以降、広島の順位は45位、40位、37位、38位、45位、42位、42位、44位と推移。/出典元:中国新聞デジタル)

渥美 えええっ! 沖縄みたいに意識が高いのかと!

 安全保障政策の考え方は様々ですが、大事なのは、一人ひとりが関心を持ち、議論し、選挙に行くことです。戦争に向かっていくような政治家がいたら、「主権者」である私たちが、「表現の自由」を使って批判し、「選挙権」を使って引きずり降ろすことができます。そうやって民主主義が機能すること、それが戦争を防ぐ仕組みでもあるわけです。

立原 もっと政治に関心を持って、選挙にも行かないとダメですね。

楾 私が憲法について発信を始めたら、私の法律事務所には弁護士業務の依頼が来なくなってしまいました。今では広島県外からの講演依頼ばかり来ます。

広島といえば、河井克行・案里夫妻の大規模買収事件で選挙がやり直しになったこともありましたね。その選挙の舞台裏を私は見てしまって、とてもおかしいと思ったので、『茶番選挙 仁義なき候補者選考』(楾大樹著、あけび書房)という本にまとめました。ぜひご一読ください。

広島選出の岸田文雄氏が総理大臣になって、地元から総理が出て嬉しい、地元だから応援しなきゃ、ということを言う人もいます。総理大臣も、選挙区選出の国会議員も、地元のために仕事をするのではありません。国会議員は「全国民の代表」(43条)であり、国全体のために仕事をしなければなりません。「地元だから」ましてや「自分にお金をくれるから」ではなく、「うちは代々」でもなく、総理大臣として、国会議員として、みんなのために仕事をちゃんとやっているか、「知る権利」を使ってよく見て、判断しなければなりません。
 

【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】とりわけ重要な“条文”と、その“意味”とは? 『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。<日本一わかりやすい憲法の授業②>_img1
 

<書籍紹介>
『檻の中のライオン』

楾 大樹・著 かもがわ出版 1430円(税込)

憲法は権力をしばるもの。憲法を「檻」に、権力を「ライオン」にたとえ、イラストで解説。立憲主義がわかる憲法の入門書。


 

 


次回は7月2日公開予定です。

第1回【日本一わかりやすい憲法の授業①】憲法が縛るのは「国民」ではなく「国を動かす権力者」。『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが語る「憲法とは?」>>


イラスト:今井ヨージ
写真:Shutterstock
取材・文/渥美志保
編集/立原由華里
 

【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】とりわけ重要な“条文”と、その“意味”とは? 『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。<日本一わかりやすい憲法の授業②>_img2