わたしたちにできること「まずは政治の話をしよう」

 

立原 mi-mollet世代の女性が、とりいそぎできることってありますか? 

楾 まずは、家族と、ニュースを見ながら政治のことを話題にしてみましょう。家の中なら「政治と宗教の話はするな」なんて言われないでしょう。社会や政治のことを普段から話題にすれば、考えも深まり磨かれてゆきます。そうやって選挙の日を迎えれば、どこに投票すべきか自分で決められるようになると思います。特に子どもを持つ親御さんは、そうやって「主権者としてあるべき姿」を見せていく。そういう家庭環境で育った子は、自然に政治に関心が向き、議論もできる主権者になることでしょう。より良い社会の作り方を下の世代に引き継いでいくことは、上の世代の責務です。おふたりは、家で政治の話はしますか?

渥美 わたしはめっちゃします。家以外でも。嫌がられてると思います(笑)。

立原 うちは時々。政治に限らないんですが、私、新聞で気になった記事があるとトイレとかに貼るんです。それで、ふとした瞬間に子ども達に「どう思った?」と聞いたり。車を運転してるときにニュースを聞きながら、「いま、政治家がこういうことしようとしてるんだけど、どう思う?」って話しかけたり。「よくわかんない」って言われることも多いですが(笑)、ちょっとずつでもいいから、何か感じたり、記憶に残ったり、興味を持ってもらえたらいいかな、と思っていて。

楾 おふたりとも、さすがですね。でも、日本では、政治のことなど話題にしない家庭が多いのではないかと思います。私は講演のとき、よく「みなさんは家族や友達と政治の話をしますか?」という質問を投げかけます。しますよ! というリアクションは少ないです。外でしないのは「タブーだから」かもしれませんが、家でもしないのは、そもそも関心が薄いからではないでしょうか。ふだん話題にすることがないのに、選挙を迎えてちゃんとした投票行動ができるでしょうか。

渥美 興味を持ってほしいですよね。その結果が、今の日本なんだから。

楾 学校の憲法の授業で「国民の三大義務」と教えられているものの一つに、「教育を受けさせる義務」がありますね。これは、親の、子どもに対する義務です。子どもたちが一人ひとり、さまざまなことを学習する権利があります(26条1項)。豊かな人生を送れるように。そして、主権者として政治のことを考えて判断できる大人になれるように。子どもの学習権を充たすのが、親であり(教育を受けさせる義務)、国です(教育制度の整備)。つまり、教育を受けさせる義務は、子どもに学習権がある、ということを裏から言い換えただけです。義務より前にまず権利がある、ということが重要です。

ですから、お子様がおられる方は、政治とのかかわり方をお子様に教えなければなりません。学校に通わせていれば先生が教えてくれると思ってはいけません。

学校の先生も、子どもの学習権を充たす憲法上の義務を負う立場です。子どもたちに「三大義務を覚えよう」などと教えるのではなく、先生自身が義務を果たして、子どもたちを一人前の主権者にする教育をしなければなりません。
 


学習権憲法26条では、1項で「教育を受ける権利」、2項で「教育を受けさせる義務」を規定。1項は子どもの学習権の保障であり、最高裁はこの背後に「一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有する」と言う観念の存在を認めている。
 


渥美 家庭はもちろんですけど、みんなが集まって憲法について学んだり、政治について話す機会を作ることが大事ですよね。そうやって仲間を増やしていくことが。

楾 そうですね。しかし日本では政治の話がタブーのように扱われがちです。「議論するのが民主主義」と教科書にはあるのに、政治の話をしようとすると嫌われる。まずはそういう風土を変えていくことが必要ではないかと思います。
では最後に、12条を見ておきましょう。

 


12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。(後略)
 


渥美 自由と権利を保持するには、不断の努力が必要ってことですね。

楾 みんなが政治に関心を持ち、議論し、投票に行く。そうやって、一人ひとりが主権者として政治と関わっていく。それによって私たちの権利が守られるはずですよということです。

立原 ぜひ今日は「こういう記事を読んだよ」って、ご家族と話してもらえたら嬉しいですね。
 

【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】憲法は、私たちが幸せに暮らすために、私たちが「使う」もの。『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。<日本一わかりやすい憲法の授業③>_img0
 

<書籍紹介>
『檻の中のライオン』

楾 大樹・著 かもがわ出版 1430円(税込み)

憲法は権力をしばるもの。憲法を「檻」に、権力を「ライオン」にたとえ、イラストで解説。立憲主義がわかる憲法の入門書。


 

 


第1回【日本一わかりやすい憲法の授業①】憲法が縛るのは「国民」ではなく「国を動かす権力者」。『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが語る「憲法とは?」>>

第2回【日本一わかりやすい憲法の授業②】とりわけ重要な“条文”と、その“意味”とは? 『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。>>


写真:Shutterstock
イラスト/今井ヨージ
取材・文/渥美志保
編集/立原由華里

 

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