対等な取引
理紀は草桶夫妻に、「対等な取引」をするならと、相場は300万円のところ、1000万円を要求します。
女性であること、生殖能力、若さ、自由、時間――。それらを差し出す代わりに、お金を得る。“間に合えなかった人”は、お金で、相手のそれを買う。
生殖能力が売り買いされていいのか。利害が一致すれば、本人たちが割り切っていれば、それでいいのか。そんなことを考えざるをえません。
悠子の友人で、春画作家の寺尾りりこ(中村優子)は、悠子の決断を聞いてこう言います。
「子宮の搾取、女の人生の搾取だよ」
代理母の議論で、この視点は必要なものでしょう。出産には当然、命の危険も伴います。それに対して、いくら高額な報酬を支払おうと、それが対等な取引なのか。それが搾取でないと本当に言えるのでしょうか。
貧困に追い詰められてとる選択は、本当に本人の意思なのか
また、このドラマのもう一つのテーマは、貧困です。そもそも理紀は、貧困ゆえに代理母に申し込みます。理紀は派遣社員で、契約切れを控えています。さらに、近隣トラブルで追い詰められ、今すぐに引越し費用が必要という状況。
このドラマでの貧困の描き方は実にリアルです。安い賃貸アパートゆえに近隣トラブルが避けられないこと。食費などあらゆるものを削らなければいけないこと。大事な人の最期にも立ち会えないこと。お金がないと、自分を大切にすることすらできないこと。精神の余裕を搾り取られ、削られて追い詰められていくこと。
理紀は言います。
「働いてもお金無さ過ぎて、貧乏に疲れたの」
この気持ち、めちゃくちゃわかるんですよね。余裕がない綱渡りの状況で生き続けなければいけない状況ってめちゃくちゃキツイ。どんどん自分がすり減って行く。もうはやく解放されたいと思う。
基や悠子は、理紀が“望んで”代理母に手を挙げた、と言いますが、実際は積極的な選択ではなく、経済的に追い詰められて仕方なく選んだ道なんですよね。それが本当に本人が望んだ選択だと言えるのか、とても疑問に思います。
ただ愛されたかった、という願い
実際、理紀は面談のあと、テルに胸の内を話します。
「そもそも男に優しくされたことない。愛とかこのまま一生知らないかもしれない。なのに、カテーテルだけ入れられて妊娠だけするんだよ。ものすごく虚しくなっちゃったよ」
「なんでこんなことになっちゃったんだろう。ただ誰か好きになりたかった」
理紀の葛藤は当然のものだと思います。お金がありさえすれば、その選択はしなくてよかった。出産するまでの間、妊娠の事実を友人や家族にも隠さないといけないかもしれない。恋することもかなわないかもしれない。様々な不調や痛み、命の危険と孤独に闘わないといけないかもしれないのです。自分の体がまるで機械のように扱われることに、葛藤を覚えるのは自然なことでしょう。
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