例えば、2024年度の年金支給額は昨年度と比べて2.7%増えたのですが、それに対して物価は3.2%も上昇しています。 物価上昇分ほどには年金は増えていませんから、これは事実上の年金の目減りと考えて良いでしょう。このようにして年金支給額を少しずつ減らしていくことで、年金の財政の安定化を図るのがマクロ経済スライドですから、ストレートに言ってしまえば、これは年金の減額制度と言い換えることができます。

 

年金減額が実施されたことで、今後、高齢者の年金は毎年、少しずつ減っていくことになります。40代で年収400万円台だった人は、現時点では月あたり15万円前後の年金をもらうことができています。しかし、年金の減額制度によって、今、40代で同水準の年収を得ている人が年金をもらう頃には、現在価値で試算すると支給額は12万円程度に下がっている可能性が高いでしょう。

現役時代の年収が高い人は何とかなると思いますが、年収が低い人の場合、年金だけで生活するのはかなり苦しくなるかもしれません。

「高齢者の定義を70歳に」提言が波紋。年金の開始年齢引き上げは否定も、現役世代はまったく安心できないワケ_img1
写真:Shutterstock

これまで日本の公的年金は財政的に危ないと指摘されてきましたが、年金の減額制度(マクロ経済スライド)が発動されたことで、財政そのものは好転する方向に向かっています。このため、今から大きく状況が変わらなければ、支給開始年齢を65歳から大幅に引き下げることなく、事態を乗り切れる可能性はそれなりに高いと思います。

しかしながら、年金の額が減っているということは、制度としては破綻しないものの、高齢者の生活が苦しくなることを意味しています。ここで関係してくるのが、今回、提言が行われた高齢者の就業促進です。

元気で働く意欲がある人に関しては、できる限り長く働いてもらい、高齢者として年金をもらいつつ、同時並行で現役世代として保険料を納めてもらえば、年金の財政はさらに好転します。こうした理由から、政府は元気な高齢者については、長く働いてもらえるよう環境整備に力を入れているわけです。

一方で、健康状態が悪化し、働きたくても働けなくなる人も一定数存在します。こうした人たちにとっては年金だけが頼りですから、生活が困窮しないよう各種支援を強化していく必要があると思います。

早く年金をもらってリタイアしたい人は前倒しで年金をもらえる、高齢になっても働きたい人はずっと働き続けられる、健康上の問題で働けなくなった人は、しっかり年金で生活できる、こうした選択の自由が、どれを選んでも不利になることなく保証される仕組みを構築していくことが重要でしょう。

「高齢者の定義を70歳に」提言が波紋。年金の開始年齢引き上げは否定も、現役世代はまったく安心できないワケ_img2

前回記事「【定額減税】どのタイミングでいくらもらえる?複雑すぎて分からない仕組みを徹底解説」はこちら>>

 
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