同じ屋根の下で暮らすというのは、逃げ場なく向き合うことなんだな、と
岡田:あの場面の撮影は1日がかりでなかなかハードな一日で。ずっと西野さん(美月役)との撮影だったのですが、途中で高畑さんが差し入れをもって来てくれたんです。そうしたら「一子に不倫の現場を見られてしまった」という妙な罪悪感が湧いてきて……美月との修羅場の場面は、そのくらい精神的にのしかかるものがありましたね。二也は「危機」に陥り、そこで西野さんに「呪いの言葉」を浴びせられるんです。それが頭にこびりついて、ずっとリフレインしていて。そういうピンチに陥った惨めさは、まあ二也っぽいといえば二也っぽいんですが、難しいなと思ったのはそれを「笑ってください」としていいものかどうか。今泉監督も撮影前はずいぶん悩まれていたようですが、いざやってみると、あれほど面白いシーンはそうそうないんですよ。すごい状況に陥りながら心配かけまいとして「いいよ、いいよ、大丈夫」と意味不明に強がる二也と、二也にとんでもないことをしておいて普通に会話している美月の、感情のぐちゃぐちゃぶりが。今泉監督の作品って、そういう場面を絶妙なバランスで成立させるんですよね。クスッと笑えると同時に心に響くというか。人間の滑稽さ、惨めさ、弱さって、こういうことなんだなというのが体感として伝わるんじゃないかなと思います。
あまりに逆説的で不思議なのは、その場面によって二也の魅力、二也の善良さを再確認させられることです。そんな目に合わされても、二也は美月に対する悪感情をこれっぽっちも持たず、恨み言のひとつも言いません。「一歩間違えばものすごく嫌われる役なので、ちょっとキュートな感じを意識した」という岡田さん。それゆえに視聴者は「何なのこの男!」と思いながらも二也を大嫌いになれないし、ここから始まる二也の受難の日々を、ちょっと笑いながら見ることができるわけです。
さてその二也の受難の日々から浮かび上がってくるのは、夫婦の浮気における永遠の問題といっていいかもしれません。曰く、何が一番の裏切りか? 二也目線の岡田さんはこう語ります。
岡田:二也の婚外恋愛は、セックスレスの状況があった上で、一子公認で了承されたものですよね。でももし「二也もやっているから」と一子が別の相手と浮気をしたら、それはちょっと傷ついちゃいますよね。どんな理由であれ、どんな状況であれ、二也は裏切られたという気持ちになると思うのは当然だと思うんですよね。
とはいうものの二也の浮気は「生身の恋愛」で、考えようによっては「浮気」ではなく「本気」のようにも思えます。いくら「一子公認」とはいえ、その裏切りの罪は、結構重いような気も。
岡田:もちろん、もちろん、二也の罪は重いですよ。でも決めた以上は……っていう感じだと思うんですよね。それが二也の弱さにもつながってくると思いますが。でも相手の浮気を冷静に受け止めていたら、夫婦として終わっているような気もするし。男性と女性の考え方の違いなのかもしれませんが、二也はどうしても理屈で考えている、というのはちょっとわかります。
もしかして一子と二也は、なんでもかんでも話し合いすぎるのがいけないような気も。言葉にするのは大事ではあるけれど、言葉にしすぎることによって相手を追い詰めていくようなところがあるのかもしれません。
岡田:二人が言い争う場面では一子の言葉がすごく刺さって、今までにないぐらい感情的になりました。一子の言葉って結構辛辣で、よくこんな厳しいことをスラスラ言うなと思って聞いていたんですが、たぶん一子も二也に同じ思いをしているだろうから、お互い様なんですよね。とはいえ、一子と向き合うリビングの空間では、毎日毎日緊張していました。互いを尊重しながら向き合って、こういう会話をずっとつづけてゆく。同じ屋根の下で暮らすというのはそういうことなんだなと。確かに演じてる時に、全部言いすぎだよね、もうちょっと隠してもいいのにね、という話もしましたけど、ほどほどの線を簡単に探せていたら世の中は「いい夫婦」だらけになっているかもしれないですよね。
一呼吸した岡田さんは、続けます。
岡田:ドラマを観ている方々にも、こういう会話を繰り広げてほしいなと思っています。
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