お金で買えば、自由を拘束していいのか?

板垣:例えば1000円以下の予算で外食しているときは何も気にならないことが、ちょっと高級なレストランに行って、サービスが1000円以下のお店と同じだったら、お金払ってるんだからもうちょっとサービスしてよなんて思ったりする傲慢な自分もいるんですよ。

でも一方で、例えば私がお金をもらう立場だったとして、これだけお金払ってるんだからこれぐらいのことはやってよって言われたら、すごくカチンとくると思うんですよね。お金払ってるのがそんなに偉いのかって。

だから、理紀の行動に対して理紀がひどいっていう人と、理紀の気持ちもわからなくもないっていう両方の意見が出るのはすごくわかります。

 

性も欲望も、いろんな形があって当たり前

ー悠子の友人で春画画家の寺尾りりこ(中村優子)というキャラクターが出てきますが、「代理母は搾取だ」と言ったり、歯に衣着せぬ物言いで物語をいい意味でかき回す存在です。りりこというキャラクターをどのように捉えていますか。

板垣:言葉をオブラートに包まずに話す人だから強く感じたりするところもあるけれど、よくよく聞いていると、一番まともなことを言っているのがりりこなんですよね。それがすごく素敵だし、中村優子さんに演じていただいたことによって、中村さんの持つ上品さや知性といったものがりりこを不快な存在にしていない。すごく強いことを言うけど、品を失わないかっこいいりりこを演じてくださっています。

簡単に白黒をつける社会に違和感、代理母がテーマの『燕は戻ってこない』プロデューサーが描く簡単には断罪できない人間の愚かさと欲望_img0
 

ー3話で、中華料理屋でりりこと悠子が、たまたま居合わせたアセクシュアルの男性客と対話するシーンがとても印象的でした。そのあとみんなで歌うシーンは原作にはなかったと思うんですけど、自分の遺伝子が入っていない子どもを育てるという悠子の決意に繋がる流れが巧みでした。どんなことを意識して作りましたか。

板垣:あのシーンは演出の田中健二も、原作の中ですごく好きなシーンだって言っていて、そもそも力が入っていたんですけど、歌わせようって言い始めたのは田中ですね。あのシーンは悠子が理紀と基の子どもを育てようと決意するっていうのがゴール。そこに至るまでにどういうことがあると悠子はそこにいくんだろうっていうのをすごく考えて、りりこがたまたまアセクシュアルの男の子と話すことになって、「これだけ人間がいるんですよ。性も欲望もいろんな形があって当たり前なんです」って言ったことが思いがけずして悠子に響くっていうふうにしました。ドラマ版として変えたところは、性も欲望もいろんな形があるっていうのは、原作では悠子の心の声だったのですが、ドラマでは、りりこのセリフにしました。