変わるもの、変わらないもの


里美さんを前向きにさせたのは、ほかならぬ智樹さんでした。言葉は詰まりがちではありましたが、智樹さんの思考は少しずつしっかりしてきて、里美さんが仕事をしながら自分の在宅介護は難しいと感じたようです。

「泊まれる介護施設、お世話つきホテルだと思えば、いいじゃない」

そんな風に明るく言葉をかけてくれたそうです。さすが智樹さん、倒れても人柄は変わらなかったと里美さんがおっしゃった通りです。

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ソーシャルワーカーや理学療法士、介護士にもたくさん意見をきき、平日は泊まれる介護施設、金曜の夜から月曜の朝まで自宅に戻ることに。

「プロの手を借りられたことで、私の心身は回復しました。でもお金はもちろんかかります。今は貯金を少しずつ切り崩しています。カバーするために残業したり、副業を始めたり、投資の勉強をしたり。収入を上げられるなら転職も考えています。……あとは月に2万円、彼の元奥さんと娘さんが助けてくれるようになって。そのお金の意味は私にとっては本当に大きくて、ああ、一人で彼を支えているんじゃないと思えてとても感謝しています」

 

現在は施設とご自宅を行き来することでふたりの生活も軌道に乗ってきたという里美さん。

結婚生活には、いくつもの試練があります。病気はその中でももっとも理不尽で、大きな試練になり得ます。それでも里美さんは目を逸らさず、悲観しすぎず、夫婦が一緒に乗り越えていける環境に投資し、人の手も借りながら善後策を考えていらっしゃいました。強くて賢明な戦い方だと感じます。また里美さんが、智樹さんに対して自然に愛情を表現している様子も、心が温かくなりました。病気という試練があっても、毎日は続いていく。変わらないものも確かにあるのだと感じられます。

智樹さんが回復に向かい、おふたりの毎日にこれからも幸せがあるように、筆者も心から祈念しています。

※取材に基づいて記事を作成しています。一般的なリハビリ病院の個室料と異なり、誤解を生むとの指摘を多数いただきましたので、一部説明を追記しました。


写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
 
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