病が犯罪の原因になり得る


また、おおたわさんによれば、病気も犯罪の原因になりうるのだと言います。精神疾患だけでなく、体の疾患も犯罪に結びつくことがあるのだそう。
 


生まれつきのものにせよ成育環境によるものにせよ、なんらかの疾患が犯罪に結びつくことはとても多いのだ。
(中略)
たとえば一種のホルモン異常の病気は精神の凶暴性をきたすことがある。

『プリズン・ドクター』(新潮社)より引用
 


こういった話を聞くと、彼らに必要なのは罰の前に支援なのではないか、と思えてきます。刑務所に送られても、そこでは飢えることもなく、雨風もしのげて外で生きるよりはましだからと、出所すればまた同じ罪を繰り返してしまいます。仕事に就いても続かず、飢えて盗みを繰り返す人は、生活保護などの制度に繋がらない限り罪を繰り返すでしょう。

知的な問題があっても学校などの現場で見過ごされ、適切な支援に繋がれなかった。疾患を抱えており、感情をコントロールできない。人間関係が築けない中、唯一居所となったのが犯罪組織だった。飢えから抜け出す術が分からなかった。そんな、社会の制度の隙間からこぼれ落ちた人たちが、どうやったら社会で健全に生きていけるのでしょうか。少なくとも、まともに生きていればそうはならない、と突き放したところで現状は変わらないでしょう。

両親が健在で経済的にも恵まれている家庭はほとんどない、書類が読めずセーフティーネットにも繋がれない...「刑務所のお医者さん」が見つめる受刑者たちの置かれた現実_img0
 

受刑者たちは、見た目はごく普通で、狂暴そうには全く見えないのだと言います。一体、何が運命を分けるのか。普通に仕事に就き、所得を得ることができ、病気などになっても適切な医療を受けられる余裕があり、生活するに困らない知能があって、人間関係も築くことができる。そんな、「持った」側からすれば、けしからん、理解不能な、極悪非道な犯罪者と映るのでしょう。でも、私たちが努力する前に身に着けていた普通がことごとく手に入らず、普通に生きていくことがままならなかった人たちもいるのです。

人はなぜ罪を犯すのか。負の連鎖から抜け出せなくなるのか。『プリズン・ドクター』(新潮社)はその現実を知り、考えるきっかけとなる一冊です。
 

 
両親が健在で経済的にも恵まれている家庭はほとんどない、書類が読めずセーフティーネットにも繋がれない...「刑務所のお医者さん」が見つめる受刑者たちの置かれた現実_img1
 
『プリズン・ドクター』おおたわ史絵 著(新潮社)

母親が望む父親と同じ道に進んだ女性医師は、刑務所のお医者さんになって「天職」を見出した。〈文身〉〈傷痕〉〈玉入れ〉など、受刑者カルテには独特の項目はあるけれど、そこには切実に治療を必要とする人たちがおり、純粋に医療と向き合える環境があったからだ。薬物依存症だった母との関係に思いを馳せ、医師人生を振り返りつつ、受刑者たちの健康と矯正教育の改善のために奮闘する日々を綴ったエッセイ集。


※初掲時、記事中の名称に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。


写真:Shutterstock
文・構成/ヒオカ
 
両親が健在で経済的にも恵まれている家庭はほとんどない、書類が読めずセーフティーネットにも繋がれない...「刑務所のお医者さん」が見つめる受刑者たちの置かれた現実_img2
 

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