「スタッフの今日のコーデ」の私服姿にファンの多いエディター・松井陽子さん。記事の中でも松井さんのスタイリングにもよく登場する、「もはや体の一部のよう」という最愛のファッションアイテムの魅力をお届けする連載企画です。
松井さんがお話を伺ったのは、2023年にデビューしたブランド「j.(ジェイドット)」のデザイナー谷川順子さん。デザイナー歴40年の谷川さんは「立体裁断」のスペシャリスト。その確かな技術を思いのままに駆使し、見事な立体シルエットを生み出しています。「デザイナーであり、順子さんは職人さん。『ジェイドット』のお洋服には、その確固たる技術があるからこそ叶えられている、さまざまな”特別”が閉じ込められているんです」と松井さん。ショップを訪れ試着させてもらいながら、その魅力をお届けします。
大人の新しいリアルクローズ
「ジェイドット」の魅力に迫ります
展示会で「ジェイドット」の服を初めて目にしたとき、トルソーにかかっているそのさまにはっとさせられました。その時のことは以前の「今日のコーディネート」でもご紹介しましたが、大人の新しいリアルクローズに出会えた気がしてわくわくしました。
“新しい大人のリアルクローズ”―――。そう思ったのは、その洗練された佇まいにあります。美しいフォルムと表情のある素材感が隙なく調和していて、どこか凛としていて、ほんのりと愛らしい、その印象はまさに大人の素敵に直結すると思ったのです。
初めて袖を通したのは、それから少し経ってから。mi-molletの春のお出かけ服の連載企画で着させていただいたのですが、それはそれは驚きました。
撮影の際にリースさせていただくものは、多くの場合サンプルサイズです。長身のモデルサイズのため、私には大きいものがほとんど。その時着たのはブラウスとパンツのセットアップでしたが、確かにサイズは大きいはずなのに、ジェイドットのお洋服は「これでも良いかも」と思えるような収まりの良さがありました。丈こそ長いのですが、美しい立体シルエットが保たれていて、余裕があるのにだぼだぼしない。ちょっと不思議な体験だったのです。
そして、その後初めて購入してみたのが、シンプルなノースリーブのTシャツ。体を通してみると、デザインが削ぎ落とされているはずのTシャツなのに、ジェイドットのものはやっぱりどこかが違うんです。細部、フィット感、素材、そして見た目……。いまの自分に見事にピッタリと当てはまりました。
それを叶えているのが「立体裁断」です。ジェイドットの服づくりはデザイナー谷川順子さんの「立体裁断」の技術が礎となっているんです。
吸い込まれるように、すっかりその魅力に惹きつけられた私。「いつかお話を伺いたい」という願いが叶って、今回デザイナーの谷川順子さんに改めてお会いできる機会に恵まれました。大阪を拠点にされている順子さんがちょうど出張で都内の「j.」のショップにいらしゃるとのこと。そのタイミングに合わせて私も伺ってきました。
大人の女性の理想を叶える
立体シルエットの魅力
「立体裁断」とは、服づくりの設計図とも言える型紙(パターン)づくりの手法の一つです。一般的なのは、身ごろや袖など、計算式で算出した寸法をもとにパーツごとに平面上で作図して型紙を作る「平面裁断」と呼ばれるものですが、ジェイドットはすべてのアイテムのパターンを立体裁断によって作っています。
立体裁断は、人の胴体の3次元モデルであるトルソーに布をあて、手作業で1本1本針のピンを刺しながら立体シルエットを生み出しながらパターンを作っていく作業です。
その立体裁断を行っているのが、デザイナーの谷川順子さん。自らの手で立体裁断を行い、すべてのジェイドットの服をデザインしています。
順子さんはまだ20代の頃にニューヨークに渡り、立体裁断の技術を習得。以来、40年以上その技術で服を作り続けています。
「20代前半、素敵だなって思ったインポートの服を解体して、どうやったらこんなきれいなフォルムが生まれるのだろうと自分なりに勉強したんです。そうしたら、美しい服はすべて立体裁断で作られていたんです。当時は、ニューヨークの勢いが止まらない全盛時代。立体裁断の技術を身につけ、ファッションの仕事をするならもうニューヨークに行くしかない!って。40年前のことで、まだ若かったんですよ」と、順子さん。穏やかな笑顔をたたえながら話してくれました。
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