針を刺しながらシルエットを構築していく作業に向き合うときは朝の5時にアトリエに入り、集中しながら一気に進めていくのだそう。「パンツの半身だけで100本くらいかしら。気に入ったシルエットが生まれるまで、何度でも針を打ち直しますよ」。パターンづくりのために用いられるのはトワル用のシーチングという、言うなればパターンの下書き用のような生地ですが、その生地では立体感のイメージをつかみきれないこともあるのだとか。そんな時は、完成形の本素材を使ってトワルを組むこともあるそうです。
「珍しいことでもなくって、思い描いたシルエットを完成させるためには、時間や手間はやっぱり必要なんです」。その言葉の通り、ひと針ひと針、微差にこだわって生まれるシルエットは、決して窮屈ではないのに、着る人を不思議なほどすっきりと見せてくれます。
「”ゆるみ”と言うんですが、ゆるみを服全体に散らすようにピンを打っているんです。ミリ単位の作業となるのですが、これが奥行きのある、すっきりとした立体シルエットを作る上での鍵となります。年齢を重ねた大人の女性たちは、体の線は丸くなってきますし、ヒップ位置も下がってくる。そういう大人の体を締め付けることなく、ちゃんとほっそりと見せてくれるのがこの立体裁断なんです。着てもらった方がわかりやすいと思うのよ」と、順子さん。せっかくなので、私も試着させていただくことにしました。
体型を補正するかのように、美しく
パンツは立体裁断の真骨頂
「試しに、パンツはサイズ違いで試着してみて」と、順子さん。早速SとM、2サイズ試させてもらうことにしました。まずはSサイズを。
キュッと高めに決まるヒップ、そしてウエストから脚にかけてさりげなくカーブが効いたシルエット。ハリと光沢のある生地のためほどよく緊張感があるようにも見えますが、後ろはウエストもゴム仕立てで、はき心地は見事にノンストレス!
「お腹まわりから脚にかけてはほっそり、ヒップも引き上げられるようにって。立体裁断ならではのこの立体感がもたらす視覚効果がわかるでしょう? 細かくピンを打って微差にまでこだわれるから、理想的なシルエットに近づけられるんです」。
確かに、確かに。はりのある生地感とあいまって、美しい立体感がそのまま楽しめるこのパンツは、はくだけでまるで補正してくれるかのように下半身を美しく演出してくれます。特にお腹まわりは、つかず離れずの絶妙なサイズ感とやや高めに設定されたウエスト位置もポイントに。収まりがとにかくいいので、窮屈さも緊張感もほとんど感じられません。
「次は、ぜひワンサイズ大きいのを試してみて。立体裁断をわかりやすく実感できると思うので」。順子さんに言われる通り、Mサイズのパンツをはいてみると、これがまたびっくり。
サイズが大きくなった、といっても、体を包み込む筒が少し大きくなったという印象でした。シルエットが崩れていないので、見るからに「ゆるゆるに大きい」とはならないのです。
「そうなんです。立体裁断って、ゆるみを立体的に全体的に散らしていくので、どこか1箇所に溜まることがないんですよ。だからワンサイズ大きいものでもフォルムが決まるでしょう?」。
なるほど、以前の撮影の時に私がほんのりと抱いた「大きいはずなのに収まりがいい」という感想は正解だったんですね。そして「この収まりの良さ」が、お尻が下がってきたり、お腹まわりが気になってきたりとさまざまな大人の体型の悩みにも抜群の効果を発揮してくれます。年齢を重ね体の線が変化して、ついつい諦めることが多くなってきた大人世代にとって、ジェイドットのパンツはどこまでも優しく寄り添ってくれる、そう実感しました。
このパンツなら、普段スカート派の方にもトライしやすいのではないでしょうか。パンツを諦めていた方にも、パンツが苦手な方にも、そして、もちろんパンツ好きの方にも。おしゃれの楽しみや喜びを広げてくれる、そんな気がするのです。
(左)谷川順子(たにがわじゅんこ):「j.(ジェイドット)」デザイナー。1986年NY・Fashion Institute of Technology卒業。帰国後はオリジナルブランドを運営しながら、BARNEYS NEW YORKの日本進出やTHE GINZAアパレル企画などに関わる。2007年長年の盟友である林 恵子とともにDoCLASSEを設立。2023年新ブランド「j.」を始動。
(右)松井陽子:エディター&ライターとして、雑誌やカタログなどで活躍中。湘南在住。家族は藍染師の夫と、20代2人、10歳の子と猫。mi-molletで月に2回アップされる「スタッフの今日のコーデ」も人気。Instagram:@yoko_matsui_0628
撮影/目黒智子
モデル・構成・文/松井陽子
前回記事「いつかオーダーしたいhumの「シグネットリング」。美しいジュエリーを生み出す秘密とは?」はこちら>>
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