希望の光
親のプレッシャーがあったとはいえ、どうして美保さんが好きでない相手と結婚できたのか。それはむしろ、結婚前に身体の関係がなかったからなのかもしれません。
気持ちも身体も反応しない、むしろ生理的に受け付けない異性との性行為のダメージはあまりに大きいものです。美保さんはこれにより不眠症となり、鬱のような症状も出始めてしまいました。
この生活はもう限界。一刻も早く終わらせたいと離婚が頭をよぎり始めたとき、しかしなんと美保さんは、娘さんを授かったのです。
「元夫とベッドに入るたび、女として否定され、また自分は女としての価値がない。妻としての義務を果たせていないと自己肯定感が下がるばかりでした。なので娘を授かったと分かった時は……本当に嬉しかった」
それまで辛い過去について、真正面から何一つ隠すことなく語ってくれていた美保さん。その様子から、彼女は辛い時期からすでに脱却し、前向きな人生をしっかり歩んでいることが十分伝わります。
しかしこの時ばかりは当時の気持ちが思い出されたのか、堪えきれないように目頭を押さえる姿に筆者の胸も強く痛みました。
望まない性行為がどれだけ心身に負担をかけ、自尊心を傷つけるのか。「地獄だった」という美保さんの言葉は決して大袈裟ではなく事実なのだと痛感します。
「この頃は不眠症に陥り、精神的にも弱っていました。外出もほとんどせず、昼間は仮眠を取りながら、夜に向けて気持ちと身体をなるべく休めるような日々。
そんな中、妊娠は私にとって希望でした。セックスはうまくできなかったぶん、当時は妊娠が救いのように思えたんです。母親になることで、きっと生活は変わる。私はまだ存在価値があるんだと」
美保さんは「私に価値がないと思っていた」という言葉を何度か繰り返していましたが、この思考は元夫の影響であるようです。
特に男性経験もなく、もともと素直な心の持ち主である美保さんにとって、彼の何気ない(当人は悪気もない)美保さんの身体に対する言動は、彼女に不必要なプレッシャーを与え、逃げ場なく追いつめていました。
妊娠によって救われ、これからは母親として娘を大事に育てよう。美保さんはそう固く決意し出産の準備を始めましたが、しかし妊娠中、今度は元夫が不審な行動を始めたと言います。
「私が妊娠してから……というか、要はセックスができなくなってから、夫がやたらと実家に帰るようになったんです。ほぼ毎週、休前日には必ず1泊してくるんです。
私はそもそも彼に愛情がないのでそう傷つくこともありませんでしたが、その話を友人にすると『絶対に浮気してるから携帯を見たほうがいい』と言われました。抵抗はあったものの、あまりの頻度なので不信感が募るし、理由を聞いても『ただ帰るだけ』と言うばかり。
なので、思い切って彼が寝ている間に携帯を見てみたんです。そしたら……」
Comment