親が使わなければ、スラングはすたれる
「ダウンちゃん」という言葉は、ダウン症のある子を育てる親、療育関係、保育士、医療従事者、ダウン症コミュニティー内で、ダウン症のある人と関わる人達が業界用語のように親しみを込めた言い方であり、悪気なくよく使っている言葉だといいます。しかし、ガードナーさんは「ダウンちゃん」に限らず、その子供や、その人そのものを透明化するかのような「呼称」にも疑問を呈します。
「別の似たものでは、自閉ちゃん、発達っ子、アスペ、コミュ障、ゆっくりさん。あなたはこの言葉使っている? この言葉好き? 使っていて気持ちいい? 私はどれも好きではない。どれも使っていないし、これからも使わない言葉」
これらの呼称が、コミュニティーの団結の言葉であるかのように使用される。しかし、こう呼ぶことは子供達の将来にとって良いことなのか? この呼び方は本当にダウン症の理解につながるか? ダウン症のある子の親達には、この言葉のナンセンスに早く気が付いてほしい、とガードナーさんは本書で語りかけます。
「おかしい」と思う言葉は捨ててしまおう
「まりいはダウン症という症状を持って生まれてきたけれど、ダウンちゃんではない。症状がちゃんを付けて道を歩いているのではない。ダウン症がまりいではない。まりいという名前があり、私達親が込めた想いや意味があり、ダウンさんが見つけた21番目の染色体が3本ある先天的症状で生まれてきただけで、あなたと同じ人間だ。
まして親であるあなた自身が自分の大切な子をダウンちゃんと呼んで差別してはいけない。ダウン症のある子の親、教育者、医療従事者がダウンちゃんという言葉を使うことで、使われる相手、使っている自分のレベルを下げていることに気が付かないといけない。傷つく人がたくさんいることに気付いてほしい」
さまざまな特徴を持つ子供達が、より生きやすいインクルーシブな社会に見合う言葉かどうか。たとえ、コミュニティーの共通言語だったとしても、自分がおかしい、自分が嫌だ、自分が好きじゃない、と感じるのなら使わなくていい。
ガードナーさんがこの本を通して教えてくれるのは、自身がたくさんもがき、傷つき、同時にまりいちゃんからたくさんの喜びを得てきたからこそわかった、子供の将来と自分の心を守る方法です。
●著者プロフィール
ガードナー瑞穂(みずほ)さん
大阪府生まれ。アメリカ人の夫と長男・長女・次女の3児を子育て中の母。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン内のフェイスペイントを行う会社にて、夫ブルースと出会う。結婚後、米フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで勤務。日本へ帰国後、長男を出産。キャニオンスパイスの人気商品「こどものためのカレールウ。」のパッケージイラストを担当するなど、イラストレーターとして活動する傍ら、英会話講師のエージェントも行っている。2023年9月、自身と長男との会話をもとに描き留めた「もし僕の髪が青色だったら」のイラストと文が、読売テレビの報道番組「ウェークアップ」で動画絵本として紹介される。次女にダウン症があることから、子育てを中心に、障害と向き合う発信をSNS等で行っている。
『ダウン症それがどうした!?と思えるママになるための100のステップ~まりいちゃんが教えてくれたこと』
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社 1600円(税別)
生まれたばかりのまりいちゃんがダウン症と診断され、不安と恐怖で戸惑う著者。長男と長女、そして次女でありダウン症があるまりいちゃん、3人の子育てを通して、著者は日々どんな感情と向き合い、乗り越えてきたのか。ダウン症がある子を育てる親たちに贈る、明るさとユーモアに溢れた100のメッセージ。
構成/金澤英恵
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