強気な態度の裏にある「傷つきたくない」という思い

「根性論を振りかざす上司」は現実逃避、「言われたことしかしない若手社員」は傷つきたくないだけ!?職場を腐らせる人の真の姿に迫る_img0
 

ただ、片田さんが問題視するのは、新人として真っ先にやらなければいけない「仕事を覚えること」さえも拒否する若手社員がいるという事実でした。

「製造業のある会社では、新入社員の男性が上司から指示された仕事であっても、『教えてもらっていないので、できません』『これは横で見ていただけなので、できません』などと断るそうだ。仕方がないので、簡単な事務作業をするよう上司が指示すると『こんな仕事を僕にさせるなんて、僕の能力の無駄遣いです。もっと僕の能力を発揮できる仕事をさせてください』と要求する。そのため、どんな仕事をさせればいいのか会社では苦慮しているらしい」

ここで気になるのは、仕事ができないくせになぜ強気に出ることができるのか、という点ではないでしょうか。第三者からすると非常に矛盾した言動のように見えますが、その背景に潜む心理を片田さんはこのように説明します。

 

「自分自身の能力を過大評価している可能性が高い。だが、実際には、自分で思っているほど仕事ができるわけではない。だからこそ、いろいろ理由をつけて仕事を断るのではないか。こういうタイプは、強い自己愛ゆえに自分は何でもできるという幻想的万能感を抱いていることが多い。仕事ができないという現実に直面すれば自己愛が傷つきかねないが、そうなるのは嫌なので、前もって断るわけだ」

幻想的万能感を抱いているもう一つの例として、ある金融機関で働く新入社員の男性を紹介しています。彼は、一流大学を優秀な成績で卒業しており、仕事にも熱心に取り組んでいるものの「質問するのはできない社員の証」と思い込んでいるのか、わからないことがあっても質問せず、自分の判断で仕事を進めて重大なミスを犯してしまうそうです。

「自分にわからないことがあるという事実自体を認めようとしない。いや、むしろ認めたくないので、質問などせず、自分の判断で進めてしまう。その結果、取引先にまで迷惑をかける事態を招いて、上司から叱責されても、知らぬ存ぜぬで通そうとする。自分の責任を認めれば、自己愛が傷つくので、それを避けるために責任転嫁して『自分は悪くない』と主張するわけである」

この自己愛の強さが、親が大切に大切に育ててきた結果だとしたらとても皮肉なことですが、これからの時代は若者の強気な態度の裏にある弱さや脆さにも目を向けてあげることが肝要かもしれませんね。


片田 珠美(かただ たまみ)さん
精神科医。広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。2003年度~2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に27万部ベストセラー『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)など多数。

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『職場を腐らせる人たち』
著者:片田珠美 講談社 990円(税込)

根性論を押し付ける、相手を見下す、責任転嫁、足を引っ張る、自己保身、人によって態度を変える、など。精神科医として7000人以上を診察してきた著者が、「職場を腐らせる」やっかいな人々を、15の具体的事例を挙げて紹介し、それぞれの言動の根底にある心理を解説します。切れ味鋭い文体や的確な指摘が魅力で、やっかいな人に嫌な目にあわされた後に読めば、溜飲を下げることもできるでしょう。


写真:Shutterstock
構成/さくま健太
 
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