飲酒はとにかく「過度」はNG

過度の飲酒がなぜ認知症を増やすのかについては、さまざまな議論が行われています。例えば、過度の飲酒はアルツハイマー病の原因の一端を担うとされるタウ蛋白を増やしたり、神経の細胞を破壊したりといったメカニズムで、アルツハイマー病の発症を促進する可能性があると考えられています(参考文献5,6)。その一方、仮説レベルではあるものの、軽い飲酒は脳での炎症を減らすなどして、認知症から脳を守る可能性も指摘されています(参考文献7)。このことから、軽い飲酒であればアルコールの良い影響についても全く否定できるわけではないのかもしれません。

このような理由を背景に、「過度」の飲酒が認知症のリスクの一つとして国際的なコンセンサスを得ています。また、その「過度」がどの程度かと言われれば、「1日あたり350mlの缶ビール2缶を超えたらもう過度である」と考えられます。
想像してみてください。例えば、あなたが毎晩お酒を飲む人だとして、夕食とともに缶ビールを1缶開け、その後晩酌でおつまみとともにもう1缶以上開けてしまったら、もう過度になっている可能性があるということです。

毎日の晩酌は缶ビール1本?2本?その差が将来の認知症の分かれ目に!韓国人400万人の飲酒量調査からわかったこと【山田悠史医師】_img0
写真:Shutterstock

一方、1日2缶を超えない程度の軽い飲酒やそれが導いてくれる人間関係は、もしかすると認知症には保護的に働いてくれるかもしれないと思わせてくれるような研究結果もあります。

しかしながら、飲酒というのは時にコントロールが難しく、徐々にその量が増えてしまうことがある点、年齢とともに代謝が下がり、量が変わっていなくても「適度」が「過度」に変化するリスクがある点、個々人によっても代謝が異なり、一概に皆に当てはめることが難しい点など、個人に当てはめる場合には注意しなければならない点もたくさんあります。

結論として、晩酌を楽しむなら、缶ビール1本程度に抑えるのが賢明なのでしょう。それ以上、すなわち缶ビールを毎日2缶以上飲む習慣がある人は、仮にその日の疲れは癒しても、脳にはむしろ「疲れ」を蓄積し、その飲酒習慣が、あなたを認知症に少しずつ近づけてしまっているかもしれません。

 


参考文献
1. Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, Ames D, Ballard C, Banerjee S, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet [Internet]. 2020 Aug 8 [cited 2021 Sep 11];396(10248):413–46. Available from: http://www.thelancet.com/article/S0140673620303676/fulltext
2. Kivimäki M, Singh-Manoux A, Batty GD, Sabia S, Sommerlad A, Floud S, et al. Association of Alcohol-Induced Loss of Consciousness and Overall Alcohol Consumption With Risk for Dementia. JAMA Netw Open [Internet]. 2020 Sep 1 [cited 2024 Aug 3];3(9):e2016084–e2016084. Available from: https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2770285
3. Mewton L, Visontay R, Hoy N, Lipnicki DM, Sunderland M, Lipton RB, et al. The relationship between alcohol use and dementia in adults aged more than 60 years: a combined analysis of prospective, individual-participant data from 15 international studies. Addiction (Abingdon, England) [Internet]. 2023 Mar 1 [cited 2024 Aug 3];118(3):412–24. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35993434/
4. Jeon KH, Han K, Jeong SM, Park J, Yoo JE, Yoo J, et al. Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia in a Nationwide Cohort in South Korea. JAMA Netw Open [Internet]. 2023 Feb 1 [cited 2023 Feb 21];6(2):e2254771–e2254771. Available from: https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2800994
5. Zahr NM, Kaufman KL, Harper CG. Clinical and pathological features of alcohol-related brain damage. Nat Rev Neurol [Internet]. 2011 May [cited 2024 Aug 3];7(5):284–94. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21487421/
6. Gendron TF, McCartney S, Causevic E, Ko L wen, Yen SH. Ethanol enhances tau accumulation in neuroblastoma cells that inducibly express tau. Neurosci Lett [Internet]. 2008 Oct 3 [cited 2024 Aug 3];443(2):67–71. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18672021/
7. Collins MA, Neafsey EJ, Wang K, Achille NJ, Mitchell RM, Sivaswamy S. Moderate ethanol preconditioning of rat brain cultures engenders neuroprotection against dementia-inducing neuroinflammatory proteins: possible signaling mechanisms. Mol Neurobiol [Internet]. 2010 [cited 2024 Aug 3];41(2–3):420–5. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20422315/

毎日の晩酌は缶ビール1本?2本?その差が将来の認知症の分かれ目に!韓国人400万人の飲酒量調査からわかったこと【山田悠史医師】_img1

『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社

Amazonはこちら
楽天ブックスはこちら

高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。

一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。

ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。

 


山田悠史先生のポッドキャスト
「医者のいらないラジオ」


山田先生がニューヨークから音声で健康・医療情報をお届けしています。 
以下の各種プラットフォームで配信中(無料)です。
ぜひフォローしてみてくださいね。


Spotify
Apple Podcasts
Anchor
Voicy

医療系のニュースレターメディア theLetter
医者のいらないニュースレター

ニューヨークで働く医師であり『最高の老後』著者である山田悠史が、健康や老化にまつわる情報や最新医療ニュースの解説をニュースレターでお届けします。「医者のいらない」状態を医者と一緒に実現しようという矛盾したニュースレターです。

無料で「医者のいらないニュースレター」をメールでお届けします。
コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

 


前回記事「テレビや音楽のボリュームをつい上げがちな人は要注意!聴力と認知症との深い関係【老年医学専門医・山田悠史】」>>

毎日の晩酌は缶ビール1本?2本?その差が将来の認知症の分かれ目に!韓国人400万人の飲酒量調査からわかったこと【山田悠史医師】_img2
 
毎日の晩酌は缶ビール1本?2本?その差が将来の認知症の分かれ目に!韓国人400万人の飲酒量調査からわかったこと【山田悠史医師】_img3