「両手を同時に動かす」ブラインドメイク
——ブラインドメイクが、通常のメイクと違うところはどんなところでしょうか。
後藤:片方の手に化粧品を持ち、もう片方の手でブラシを持つなど、晴眼者の方は主に「片手で顔にメイクをする」ことが多いと思います。ですが、視覚障がいの方が行うブラインドメイクでは、「両手を同時に動かして塗る」のが基本です。手を水平かつ均一に動かして、それぞれの化粧品を塗るんですね。
例えばリップなら、両手の小指の第一関節の先端を使って、唇の中央から外側へ指を動かして色を乗せていきます。色が薄かったら、もう一度同じ動作を繰り返して色を重ねていくんです。
——「薄くしか付いていない」ってわかるものですか?
後藤:私たちUBAによるレッスンでは、「もう1回つけてみましょうか」と言ったり、こちらの判断である程度誘導します。
——他にもブラインドメイクの指導で難しいことはありますか。
後藤:元々は見えていたけれど、何らかの事情で途中から目が見えなくなったという方は、「色を想像すること」はできるんです。ただ、長らく色彩を視覚的に認識できていないこともあって、目の前にある化粧品の色の印象、質感がわかりません。晴眼者のお客様に対してだって、色のニュアンスや質感を言葉で伝えるのはなかなか難しいことです。それを、目が見えない方に「ツヤのあるベージュ」とだけ伝えても、メイクした際のイメージを膨らませていただきづらい。だからどうお伝えしたらいいのか、頭をフル回転させてボキャブラリーを探します。
言葉を尽くして、詳細を説明する
——例えば、どんな工夫をされていますか?
後藤:OSAJIでは、商品を作るときのコンセプトが徹底されていて、情景や景色、感情などを切り取ったコレクションが数多くあります。メイクカテゴリーであれば、01番、02番という型番号の後に、「追憶」とか「向こう岸」、そういった名前がついています。この化粧品はこういう印象ですよと、イメージを伝えることは他のブランドよりも元々ちょっと多いかも知れません。
製品のネーミングについても、「自由に想像してほしい」というメイクディレクターの考えがあります。製品をご紹介する際、ネーミングについて語ったり、また、スタッフそれぞれが感じ取ったイメージやコレクション毎のストーリーを、楽しく会話に取り入れたりして解説するときもあるんです。そのような会話をすることで、お客様とほっこりする場面が増え、接客に笑顔が自然と増えていきます。OSAJIでは真剣に商品説明をしようとすると、自然とボキャブラリーが出てくるんですよね。
そういうところで見ても、OSAJIはお客様側にも「言葉」からイメージを膨らませていただく機会が多くて、視覚障がい者の方も楽しめるブランドなんじゃないかなと思っています。
——鏡をお見せして「お似合いですよ」の一言で済むところも、ブラインドメイクではどんな仕上がりかを、言葉でお伝えする必要もありますよね。
後藤:私は外国語を喋れませんが、同時通訳の方ってこういう状況なのかな、と思ったりします。個人的に難しかったのは、目の前に化粧品を置いて、こちらが下地、こちらがファンデーションです、と言っても、「目の前に」という説明では視覚障がいの方は認識できません。なので、まずは「手をお借りします」と言って、「少し左に手を伸ばしてください。これが下地です」と触って確認していただく必要があります。
また、ブラインドメイクの講習で「注意点」として言われるのが、店頭の椅子にご案内する際の「椅子の位置」です。視覚障がいのあるお客様は、ディスプレー棚や他のお客様の間をすり抜けて、スタスタ歩いて椅子に座る、ということが困難です。そうした動作一つひとつをお客様目線で見直しながら、サポートしたり、丁寧に伝えたりしていく必要があります。私たちも試行錯誤しつつなので時間はかかってしまいますが、UBAの誰もが日々勉強を重ねているところです。
一旦席を離れる際も「一度離れますね」というお声がけと「戻りました」とお伝えすることが大事。目の前に居なくなったことに気づかず話しかけて返答がないと不安を感じてしまいます。そして、急に話しかけ始めても驚いてしまうので、そういったお声がけが大切なんです。
撮影/加藤夏子
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵
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