「私も若いころは何度か家出を決意したんです」

「気に入らん部分は目をつむるの」。103歳の哲代おばあちゃんが語る、夫婦が添い遂げる秘訣_img0
建て替え中の自宅の縁側で撮影した若いころの哲代さんと夫の良英さん。

いつだったか電気釜が出始めたころ、一番に買ってきてくれちゃったの。「これでご飯を炊けば早かろうが。起きんでいいけん、らくになろう」って。そのときは「えっ」てびっくりしたんです。それまでは朝早く起きて台所のおくどさん(かまど)に火を入れて朝食とお弁当用のご飯を炊いていましたから。私、その電気釜をどこに置いたと思う? 枕元でございます。寝間の柱のコンセントに差してね。明け方に布団から手を伸ばしてスイッチを入れて二度寝するの。炊き上がったら起きるんです。

横着もんだと思うでしょう? 本当は良英さんが私のために買ってきてくれたんがうれしかったん。じゃから「助かるわぁ、うれしいわぁ」って伝えたかったんですね。良英さんのちょっとした優しさをすごく大きく喜んでおりました。私も単純なんでございます。

ええとこはしっかり見てあげて、気に入らん部分は目をつむるの。それが夫婦が添い遂げる秘訣かも分かりません。なーんちゃって。

でもね、私も若いころは何度か家出を決意したんです。給料がおおかた飲み代に消えるんじゃから、そりゃあ苦労しておりました。

 

師範学校のときの友達を当てにして深(三原市深町)のバス停まで行くんじゃが、結局戻るんです。とぼとぼと。だらしないですねえ。毎回、未遂に終わっとるんです。たんか切って出るわけではないけども、「もう出て行きます!」って顔して出とるのに、どの顔で帰られようかと思ってねえ。

もうこの人とはやっとられんと腹を立てても、私がいないとこの人は飢え死にするんじゃないか、守らにゃいけんって思い直すんですね。離れた場所で生まれたもん同士がこうして出会わせてもろうたんじゃから。夫婦は腐れ縁と思うようにしておりました。なあ、良英さん。