永遠のような、たったの7日間が教えてくれたこと
たったの7日間だったとは思えないほど、これが永遠なのかと思うほど、えーえんとくちから「永遠解く力を下さい」と唱え続けたくなるようなほど、永くて深い7日間だった。
入院中もみんなから「待ってるよー、ゆっくり休んでねー」という動画が送られてきて、私はそれを見るたびに涙して、病気になってしまった自分の不甲斐なさ、でも病気は人も場所も時間も選ばず突如としてやってくること、病気になってしまった自分を受け入れること、申し訳ないと思ってしまうけれど、でも、しょうがないこと、誰にも選べず、誰かに謝ることではないのに謝りたくなってしまうこと、悔しいこと、そして、いつか誰もが経験するであろうこと、その時に補い合えるということがわかったこと、私がいなくても世界も社会も回ること、代わりはいるということ、だから安心して休んでいいということ、ひとりでどうにかしようとせずに「助けてください困っています」と声を上げていいこと、上げなきゃいけないこと、それが迷惑なんかじゃないこと、迷惑は声を押し殺して我慢した先に起こるということ、だから私はもう我慢しないこと、おかしいと思うことにはおかしいと言い、納得できないことは納得しようとせず話し合うこと、それを恐れないこと、そんな当然のことがやっとわかった7日間だった。
退院した日の夜、親友と新宿の随園別館という中華料理屋へ行き、久しぶりにシャバの飯を食べた。
これから私の人生はどうなっていくのか全くわからなかったけれど、おいしかった。
おいしくておいしくて、「死んでもいいや」なんて思っていた自分があほすぎて泣けた。
なに言ってんねん! 人がいなくなるってことの物凄さを舐めんなよ! ほぼ隕石衝突ぐらいの衝撃やからな! お前のそばにおってくれる人のことを考えろあほ! お前の目の前にいる大好きな人もお前も10秒後にいなくなる確率は永遠にどの時間帯においても5割なんやからな! だから、いつでも最期の瞬間やと思ってありがとうって伝えとけよ! 大好きやって伝えとけよ! あんたのここがすばらしい、あんたはすごい、あんたのここは天下一品やって全部全部言えるときに言っとけよ! 「また」なんて一回もあると思うなよ!
自分の体から叱咤激励を受けて、私は待ってくれていたみんながいる撮影現場に戻った。
「おかえりー!!」と全力で抱きしめてくれたみんなのことを私は一生忘れへん。
もし、この先誰かが逆の立場になって、私のような経験をしなくてはいけなくなったとき、私はその誰かが戻ってきたとき、嬉しさ全開で、全力で抱きしめる勢いで「おかえりー!」って伝えたい。みんながそうしてくれたように、「私、今日誕生日やったっけな?」って錯覚するぐらい、「おめでとう!」ってお祝いする勢いで、かつての自分のようなその誰かを全身全霊で迎え入れたい。この先何があるかわからへんけど、どんなことがあってもどうにかなるんやってみんなが証明してくれたように、私もいつか満面の笑みで誰かのことを寿ぎたい。
あれから2年経ち、その時一緒だった監督、カメラマン、スタッフの皆さんがまた私と一緒に仕事をしたいと私のことを現場に呼んでくれた。
途中でお休みし、多大なご迷惑をかけたと思っている私にまた声をかけてくれた。
がんばらなあかん。
がんばりすぎずがんばらなあかん。
今度は黄色くない私の全力を皆さんにお見せせなあかん。
たとえ誰に何があろうとみんなで補い合って、おもろいものを創らなあかん。
永遠を解く力がなくても、もともとこの世に永遠なんてないねんから、望まなくても、引き留めたくても、永遠は誰の願いも聞き入れずに勝手にどんどん解かれていくのだから、巡ってきたこの今に私は全力を懸けて、賭けて、翔けるしかない。
永遠を解く力を永遠に受け入れて、今日も私はちゃ舞台の上で踊る。
<INFORMATION>
坂口涼太郎さん出演
ドラマ「Sunny」
(Apple TV+で配信中)
日本の京都に住む、あるアメリカ人女性の人生が一変。彼女の夫と息子が不可解な飛行機事故で消息不明となってしまう。そして、夫の電子機器会社が製造した新型の家庭用ロボット・サニーと暮らすことになる。
文・スタイリング/坂口涼太郎
撮影/田上浩一
ヘア&メイク/齊藤琴絵
協力/ヒオカ
構成/坂口彩
前回記事「「休めよ、あほちゃう?」私にとって「死」がはじめて現実味を帯びた2年前の夏【坂口涼太郎エッセイ】」>>
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