日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは「教えてくれよカーダシアン」です。歌い踊り演じるお仕事のお涼さんが、体のコンディションを整えるためにやっていること。
今、ちゃぶおどを読み始めようとしてくれているそこのあなた。
肩こり首こり頭こり腰こり足こり、その他全てのこりによる疲れや痛み、大丈夫ですか?
ちょっとせっかくなので今、肩や首を回してみたり、頭やこめかみを揉んでみたり、腰を色んな角度に伸ばしてみたり、足を揺らしてみたり、無駄に力が入っている部分を見つけては力を抜いてほぐしてみましょう。
今日の気温、空気、お天気、光、風、周りの音を感じてゆーっくり息を吸って、体が膨らんだら息を全部吐き切って、新しく生まれ変わるみたいに新たな空気を全身に取り込んで、そのままゆっくり踊り出しましょう。
ちょっとそれは厳しいという方は心の中のダンスフロアで踊りながら、このままちゃぶおどを読んでね。
私はよく駅のホームで電車を待っているとき、踊っています。なんか、ちょうどいいダンスフロアなんだよね、駅のホームって。絶妙にちょっと暇で、ほんならちょっと体でもほぐしがてらリズムに乗ってみるか、足もちょっと動かしてみるか、上半身ウェーブしてみるか、みたいな感じで体をゆさゆさ揺らしていたらいつの間にかものすごい踊っていたりして、気がつくと私の後ろだけ誰も人が並んでいなかったりして、はっとすることがあります。
私は肩があまりこらない体質みたいで、この34年間、マッサージでもなんでもいいから体をもみもみごりごりほぐしておくんなまし! というような願望を抱いたことがございませんでした。
もちろん筋肉痛になったり、足が疲れるとよくこむら返りになったり、体が痛い、だるい、疲れてるみたいなのはあるんやけど、整体院やマッサージはちょっと私の生活水準からいうとお値段が高いと思ってしまい、そんな時は自力のストレッチと、銭湯に行ってでかい風呂に入るっていうやり方で対処してきた。
銭湯は私にとってのオアシスで、仕事が終わったあとや、今日は自分頑張ったなとか、このエッセイを一篇書き上げたあとのご褒美としてざぶーん。数年前に水風呂に入れるようになってからはサウナという新しい扉が開き、よりざぶーん。毎日演劇の本番をやっているとき、銭湯に行った日と行かなかった日では翌日の体の重さが全然ちゃうくて、より銭湯信奉者になったのであった。
子供の頃は銭湯でとなりにいるおっちゃんが「ふあーーー」「ふえーーー」と鳴き声をあげているのを聞いて、めちゃくちゃ声出るやん、と思っていたけれど、今や私もその鳴き声を習得して、ファースト入湯時には必ず「ふあーーーふえーーーふおーーー」と大鳴き。鳴こうなんて微塵も思っていないのにどうしても鳴いてまう。特にサウナに入ったあと水風呂へ体を投入するときなんて百発百中で鳴く。「鳴くな!」って拷問されても鳴いてまうぐらい必ず鳴く。しゅっとしたお兄ちゃんたちが顔色ひとつ変えずに呼吸すら止めているんじゃないかと思うほど呼気も感じさせずに水風呂へ入り出ていく姿を見ると、すごいな、なんで? どうやって? と思い、感心する自分が恥ずかしくなるほど、私は入るたびに「ふおうあーーーーーーーっ」とアラスカにいるトドってこんな感じかな? と思うほどに声が出てしまう。我慢しようと思って入ってみたことがあったんだけど、「鳴いたらあかん鳴いたらあかん!」と声を押し殺していたら呼吸がうまくできなくて「ふごがっ、ふごごっ、ふぉふぉふぉっ」と、もしお風呂場にライフセーバーがいたら一目散に「大丈夫ですか!」と助けにくるやろなみたいな音が出てしまって、諦めた。
先日錦糸町の楽天地スパという銭湯に行ったら、となりのおっちゃんが件のトドで、お湯に浸かっている間中「ふおーーふあーーふえーー」とエンドレスで大鳴きしていて、その鳴き声のエネルギッシュさがあまりにもすごかったから「この鳴き声に呼応してみたらどうなるんやろう」という興味関心が湧いてきて、おっちゃんが「ふおーー」と鳴けば私も「ふおーー」おっちゃんが「ふあーー」と鳴けば私も「ふあーー」おっちゃん「ふおーー」私「ふあーー」おっちゃん「ふえーー」私「ふほーー」とトドセッションが始まり、徐々にその間隔が短くなってきておっちゃんもさらにノってきてエスカレート。「ふおーーふえーーふおーーー」とロングトーンで鳴き始めて、私はすかさずそこにハモリを入れてみようと「ふぉーーふぇーーふぉーーー」と音階でいうと5度のハモリで呼応。「ふあーーふえーーふあーーふえーー」「ふぁーーふぇーーふぁーーふぇーー」と私たちの鳴き声の合唱は教会で歌う賛美歌のように浴室を響かせてクライマックスへと向かい、「ふえあーーーーーー」「ふぇぁーーーーー」と錦糸町の全てを浄化するほどホーリーな響きを残したあと、おっちゃんは満足したのか沐浴を済ませた聖者のごとくお湯から上がっていった。
そんな銭湯ライフを繰り広げる私も、銭湯の浄化作用と自力のストレッチやヨガをもってしても体の疲れがとれなくなってしまったことがあった。
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