憲法14条の掲げる「国民」は男と女だけではない

『虎に翼』朝ドラが同性婚や夫婦別姓を描く意味。マイノリティは社会的意義のために存在しているわけじゃない【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー21•22週】_img0
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そんな「『虎に翼』らしさ」に喝采をあげていた人が、性的マイノリティや夫婦別姓についてはなぜか顔をしかめてしまう。「ついていけない」と思ったり、「テーマとそれている」と感じるとしたら、それはやっぱり人というものが「自分事」以外はなかなか理解しづらかったり共感しにくかったりするからかもしれません。

シスジェンダーでありヘテロセクシュアルである人にとって、同性婚やそれが叶わないことで起こる不利益は、どうしても「他人事」にならざるを得ません。それよりも優先してほしい政治的課題はきっと他にあることでしょう。

僕もそうです。独身で子どものいない僕にとって子育て支援に関する施策は、やっぱり「自分事」ではない部分があります。夫婦別姓も、結婚する意思のない僕にとって(さらに仮に結婚したとしても、自分が姓を変えることを自然に考えづらい男性という属性にいる僕にとって)、やや切実さに欠けた問題であり、当事者ほど血肉の通った議論はできません。
 

 


でもだからといって、それらがどうでもいいとは思わない。困っている人たちが救われる方向へ、できる限りすみやかに政策を進めてほしいと応援しています。なぜそう思うのか。浅い答えかもしれませんが、いろんなドラマや小説といった物語を通して、悩む人たちの思いを見てきたからです。

『逃げるは恥だが役に立つ』のみくり(新垣結衣)。『コウノドリ』の彩加(高橋メアリージュン)。『わたし、定時で帰ります。』の賤ヶ岳(内田有紀)。結婚したら姓を変えることを当然と思わないこと。出産が女性に与える負担。働きながら子どもを育てる難しさ。僕はどれも経験したことはありません。でも、物語にふれることで、ほんの一事例ではあるけれど知ることができる。考えることができる。

『虎に翼』朝ドラが同性婚や夫婦別姓を描く意味。マイノリティは社会的意義のために存在しているわけじゃない【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー21•22週】_img1
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本当はもっとリアルな友達の体験や悩みを通して見識を深めるべきかもしれません。でも、あまり交友関係の広くない僕にとって、物語の登場人物が世界との窓口でした。彼/彼女らと友達のような気持ちになることで、遠い誰かの困りごとを近しい誰かのSOSとして感じられるようになった。

だから、僕は朝ドラという日本でいちばん観られているドラマ枠で、同性婚や夫婦別姓を描くことは大きな意味があったと信じています。きっとこの作品を観たことで、今まであまり関心がなかった同性婚について考えたり、夫婦別姓を求める人の気持ちが少しわかったという人が増えたと信じたい。


もっと自分に近い出来事――たとえば働く女性をターゲットにしているならば、秋山(渡邉美穂)を通して描かれた育児支援の不備や復帰後の不安を取り上げたほうが感情移入しやすいかもしれないし、家庭を支える女性に訴えるなら、百合(余貴美子)の「褒められてやっているわけじゃないけど、でも時々は褒められたいの」といった台詞のほうが響くかもしれない。

でも、それだけではなくて、大多数の視聴者にとっては「他人事」である人々の苦悩もできるだけ取りこぼさずに描くことで、ドラマとしてより厚みを持ったと僕は感じています。なぜなら憲法14条の掲げる「国民」は男と女だけではないから。そのどちらにも属さない人々も「国民」であり、それらすべての人々にとって平等な社会を目指す姿こそが、『虎に翼』だと僕は思っています。