『海のはじまり』には“リアル”が詰まっている


正直なところ、『海のはじまり』に関しては、最初からどハマりしていたわけじゃないんです。推せるキャラがいなかったというか。

夏は、いきなり娘が現れて戸惑っているのは分かるけれど、もっと弥生のケアをしてあげて! と思っていたし。弥生も共感はしやすいけれど、全肯定できるわけじゃない。水季に関しては、いまだによく分かっていないかもしれません。夏の人生の選択肢を奪いたくなくて、別れたあとに海を産んだ……というところまでは理解できますが、だったらなぜ夏の居場所を海に教え込んでいたのか? 死期を悟って、海に頼れる場所をひとつでも増やしておいてあげたい……と思ったのかもしれないけど、だったら夏に連絡をして、状況を整えておいてあげるべきだし。

だけど、第9話を観てから作品の印象がガラリと変わったんですよね。このドラマは、とことん“リアル”を追求してるんだって。だから、登場するキャラみんな素敵なところがあれば、欠けている部分もある。完璧すぎない。物語の展開も、美しくしすぎない。


たとえば、水季だって、もっと美しく儚いキャラにできたはずなんです。彼に迷惑をかけないように、隠れて子どもを産み、ひっそりと亡くなったヒロイン……とか。でも、実際の水季は、“夏くん”だけでなく、“夏くんの恋人”にまで手紙を遺しちゃうような自己顕示欲MAXなヒロインです。おそらく、あの手紙を読んだ夏と夏の恋人が、どういう気持ちになるのかをあまり想像できていない(想像してやっていたとしたら、怖い)。

そして、弥生も、「好きな人と離れても自分が納得できる人生と、辛い気持ちのまま2人のために生きる人生。どっちにするか考えて、自分を選んだ」と言っていました。“2人のために”生きるヒロインは美しいけれど、“自分”を選べるヒロインって力強い! この弥生の台詞を聞いた瞬間、令和のヒロインはこれじゃなくちゃ! と思いました。
 

 


ぶっちゃけた話、3年交際してきた彼氏と別れるって、また違った覚悟が必要だったりしませんか? しかも、弥生は30歳。ちょうど結婚ラッシュの時期だし、「そろそろわたしも?」と考えていたはずです(公式サイトの紹介文にも、「夏とは付き合って3年になり、そろそろ結婚も? と、なんとなく考え始めている」とありました)。

それなのに、幸せになれない結婚ならいらない! とばかりに、夏に背を向けて歩き出した弥生。「女性の価値=クリスマスケーキ」と言われていた時代は過ぎ去り、令和になってからは、結婚してもしなくても幸せになれるんじゃない? という価値観を持っている人が増えてきました。30歳で交際3年目の彼氏に自ら別れを告げた弥生は、まさに令和らしいヒロインだなと思います。

『海のはじまり』弥生(有村架純)の「お母さんにはならない」選択で印象逆転!美しさよりリアルを追求した物語の力強さ_img0
 

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