嫁に人権はなし!?


結婚して2年が経った頃、春香さんはお子さんを授かりました。すると利光さんのご両親は非常に前のめりに「男の子かい?」と訊いてきたそうです。

「彼の実家は、広大な田んぼの中にぽつん、と建つようなわりと大きな一軒家です。以前彼が酔った勢いで『うちの親は国債で8000万円くらい持ってるんだ。結婚したら家、建ててくれるぞ』と言っていました。畑もあると言っていたし、お金はあるほうだったと思います」

積極的な投資ではなく全部国債で8000万円、というのを聞いて、保守的で堅実なご両親というイメージを持ちました。

その想像通り、どうやら「将来の墓守である男子を早く産んでほしい」というのがありありと見て取れたそうです。第一子が女の子だとわかると、面白いほどに興味を失ったというのです。

「子どもが生まれたら同居、という口約束だったんですが、長女が生まれてからもそんな話にはならず、ホッとしました。社宅は手狭で、夫は不満そうでしたけれど私はそのほうが気楽だなって。いくら家を新しくしてくれると言っても、いきなり10回くらいしか会ったことがない老夫婦と同居ってよく考えるとすごいことですよね……」

しかし春香さんがほっとしたのもつかの間、2年後、今度は男の子を授かりました。妊婦健診で男の子だとわかった瞬間から、二世帯住宅の改築準備が始まります。それはまったくの既定路線として、1度として春香さんやそのご両親に意思確認はなかったそう。

本当に現代の話...!?「嫁の風呂は最後で、水滴は拭き上げて。食事は台所よ」田舎に嫁いだ彼女に浴びせられた義母の言葉_img0
 

同時に夫の利光さんも実家から車で30分ほどの親戚の建設会社に転職しました。そのことは、結婚前に共有されていたので、今さら異議を唱えることはできません。春香さんは「これがベストだ、子育ても助けてもらえるはずだし、子どもたちもおじいちゃんおばあちゃんに可愛がってもらったほうが幸せだ」と自分に言い聞かせました。

伺っていて「正直に気持ちを伝えて話しあったほうが揉めないのでは?」という気がしました。しかし、やはり春香さんの立場だったら難しかったかもしれません。

二世帯住宅仕様に改築された家は、義両親の一存で何もかもが決まっていきます。浴室や台所はひとつしかないことに春香さんはとてもがっかりしたそうですが、水回りを分けると不経済だという全員の意見に逆らうことはできません。なにせ、改築費用は義両親が持ってくれているのです。
 

 


「でも、正面玄関を使っていいのは義両親と夫、そして息子だけだと言われたときは、さすがにショックでした。私と娘は、通用口から入るようにと言うのです。冗談で言ってるのかな? と思いましたが、本気でした。私が家に入ろうとすると、1人のときはインターホンを押しても玄関をあけてくれないんです。

正面玄関の鍵は、私には渡されていません。というか夫も持っていません。いついかなる時も、夫の帰宅時は、妻は家で迎えろ、鍵で開けさせるなというのが義実家での不文律でした。その時肌で、ああ私と娘はこの家の人間として扱われていないんだと感じましたね」

なんとも時代錯誤な話です。おそらく、跡取り息子=自分たちの生活とお墓を守ってくれるひと、と認識してそれ以外のひとはぞんざいに扱ってもいいのだと歪んだ認識を持っているのでしょう。

しかもそれは悪夢の序の口にすぎませんでした。