いまやすっかり定番化した韓国ドラマでは、女性が彼氏や夫を「オッパァ~」とどこか甘え気味に呼ぶ場面に出くわします。
韓国の男性は世代によっては「オッパ」と呼ばれると喜ぶところもあるようで、時には「オッパがやってやるよ」と自称する場面も。
この「オッパ」、単純に「年下女性からの年上男性に対する呼称」で、かつては字幕や吹き替えでは「お兄ちゃん」とか訳されていて、日本人からすると違和感ありまくりだったものです。
私が最初にこれを聞いたのは、確かチェ・ジウ主演の『天国の階段』だったんですが、恋に落ちたヒロインと初恋相手に、ヒロインの継母の連れ子の兄妹(つまりヒロインの義理の兄妹)がそれぞれ横恋慕するというドラマで、女子二人が男子二人をそれぞれに「オッパ」と呼ぶために、ええと誰と誰が兄妹で、誰と誰が恋人でしたっけ? と非常に混乱したんですが、それ以上に違和感を覚えたのは「恋人」や「夫」を「お兄ちゃん」と呼ぶことそれ自体です。
例えば私が誰かを「お兄ちゃん」と呼んだ時、私は「お兄ちゃん」に対する「妹ちゃん」なわけですが、3人姉妹の「末っ子の妹ちゃん」である自分の体感として、この世の中で「妹ちゃん」ほど侮られがちな存在はありません。親からはいつまでも「赤ちゃん」「味噌っかす」扱いで一人前とみなしてもらえず、「姉のおふる」「姉の通った道」を当然のこととされ、上からは「道が用意されてて楽」とか「甘やかされて得してる」と後ろ指さされる。どれも私は望んだことじゃないのに。それでも私が「甘えっ子の可愛がられ作戦で得して生きていこ!」とならなかったのは「お兄ちゃん」がいなかったから、そして「お兄ちゃんがいる妹」だった近しい友人がいたからかもしれません。
ある時、我が家で一緒に鍋物を囲んだ彼女は、誰に言われたわけでもなく、そのフィニッシュにささっと雑炊を作りはじめました。「こうするとフワフワ卵の雑炊になるんだよな、さすが〇〇ちゃんだな、お前とは違うな」とデレデレの笑顔でのたまった父と、恥じらいの「うふ」な笑顔の友人を見て、私の胸にはふたつの思いが去来しました。
ひとつは「お兄ちゃんの妹」が、「お兄ちゃんの妹」であるがゆえに無意識に買って出てしまう役割。
もうひとつは「父ちゃん、わかってんなら次から自分でやりな」。
韓国の家族制度の「はて?」について書いた『家族、この不条理な脚本』は、まさにそういうことが書かれている本です。
実を言えば韓国には「オッパ」以外にも、「家族内の立場と役割」を示す言葉がめちゃめちゃ細かく存在します。例えば「ヌナ(年下男性が呼ぶ「年上女性」)」「チョナム(夫が呼ぶ「妻の弟」)」「トリョンニム(妻が呼ぶ「未婚の義弟」)」「ソバンニム(妻が呼ぶ「既婚の義弟)」「ソバン(夫が呼ぶ「義妹の夫」)」「チョヒョン(夫が呼ぶ「義姉」)」「ヒョンニム(夫が呼ぶ「義兄」)」……などなど。
会社の組織図か! 役職か! とかいう感想は当たらずとも遠からずで、これ、家族内の序列(遺産を受け継ぐ順番)を明確にするためなんですね。性別がすぐわかるのは、儒教の価値観における家族観では「父系男子に受け継がれる血筋を守ること」が第一義だから。今風に言えば、性別役割分担とジェンダー意識と直結してるわけです。
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