世界で最も愛されてきた四姉妹の名作を原案としたドラマ「若草物語—恋する姉妹と恋せぬ私—」(日本テレビ系)が始まります。初出版から150年の時を超え、令和日本に生きる女性たちに舞台を変えて、なぜ今ドラマを描くのでしょうか。メインプロデューサーの森有紗さんに『若草物語』に感じた魅力とキャスティングやドラマにこめた思いなどを伺いました。

<『若草物語(原題Little Women)』のストーリー>1868年に初出版されたアメリカのルイザ・メイ・オルコットが執筆した不朽の名作。ルイザと家族をモデルにした自叙伝的小説です。原書“Little Women”は、南北戦争で従軍牧師となった父親の留守を預かる主人公マーチ家四姉妹の成長を描いた『若草物語(Ⅰ)』と、青春期を迎えた四姉妹が恋、結婚、夢に真摯に向き合い、苦悩しながらそれぞれの人生を見つけていく『若草物語Ⅱ(続若草物語)』(翌69年出版)の2部で構成されています。
 
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左:オーチャード・ハウスミュージアム外観。アメリカマサチューセッツ州コンコードで作者ルイザ・メイ・オルコットが家族と暮らし、作品の舞台となった建物。ここで名作『若草物語』は生まれました。現在はルイザ・メイ・オルコットのオーチャード・ハウスミュージアムとして保存されていて、ルイザの部屋などを見学することができます。/Used by permission of Louisa May Alcott’s Orchard House; Trey Powers, photographer 右:2階の自室で執筆中のルイザ・メイ・オルコット。/Used by permission of Louisa May Alcott’s Orchard House
 


「強さと弱さ」主人公に感じた親近感がドラマ化へのきっかけに


—— 日曜ドラマ「若草物語—恋する姉妹と恋せぬ私—」が10月6日(日)から放送開始になります。ドラマを着想されたきっかけはなんでしょうか。

森有紗さん(以下、森さん):最初に『若草物語』を読んだのは、小学生の頃だと思います。少女向け小説といえばプリンセスが幸せになるような物語が多い中、主人公の次女ジョーを視点に描かれた四姉妹のストーリーは、初めて親近感を抱いた本でした。

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若草物語 Ⅰ&Ⅱ』ルイザ・メイ・オルコット (著), 谷口 由美子 (翻訳)/講談社

そして、コロナ禍にグレタ・ガーウィグ監督の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年公開、日本は20年6月公開)を観ました。映画はⅡ部の話から回想していきます。大人になったからこそキャラクターそれぞれの心情が理解できたり、強さと弱さが同居する、地に足のついたジョーの描かれ方には「友達になりたい」と思える親近感に加え、憧憬の念も覚えました。そこで改めて読み返して、この本の魅力を再発見しました。

「もし四姉妹が現代日本にいたら」…膨らんでいったアイデア


—— 不朽の名作、今は古典ともされる物語ですが、現代の日本に置き換えられる作品だと気がついたのですね。

森さん:まず、150年以上前に書かれたと感じさせない先進性が魅力でした。当時は今よりも女性の経済的な自立と結婚が、イコールで結びつけられたと思いますが、それだけではない視点で描かれています。男女の友情の描かれ方の意外性もそう。今読んでも新鮮で、全く古さを感じないところがありました。

あまりにもジョーや作者ルイザを身近に感じたのか、もしこの令和の日本に四姉妹が生きていたらどんな感じだろう、というインスピレーションがスッと湧いてきました。だから発端は空想からなのですが、そこからアイデアが徐々に膨らんでいきました。

そして昨年初夏、担当していた深夜ドラマの撮影現場に見学に来ていた脚本家の松島瑠璃子さんに「若草物語がすごく好き」と話したところ、松島さんもジョーがとても好きで、だったらジョー・四姉妹が日本にいたら、という着想でドラマにしてみたらどうだろう、となりました。今回のドラマの脚本を務める松島さんは価値観が近く、“同志”のような気持ちで企画を練っていきました。


ドラマの主人公・涼は小説のジョーからブレないキャラクターにしたかった


—— 現代日本へのアレンジということですが、配役など、原案の本の内容でこだわったところや生かしたところはありますか。

森さん:ドラマの主人公の次女・町田涼(堀田真由さん)ですね。性格や価値観が原案の小説からブレないよう、キャラクター造形はジョーを踏襲したいということが一番大きかったです。小説では“作家志望”という役どころですが、ドラマでは“脚本家”という設定にしました。

長女・恵(仁村沙和さん)も幸せな結婚を夢見ている小説のメグの性格に近い。ちょっと保守的で結婚願望が強く、しっかり者でみんなのお母さん的存在です。末っ子の芽(畑芽育さん)は美術が好きな小説の四女エイミーのようにデザインや芸術のセンスがあって、夢を追って、服飾専門学校に通っている設定です。

非常に難しかったのは三女・衿(長濱ねるさん)の描き方です。小説のベスは病弱で、“マーチ家の天使”として愛されている、穏やかで心優しい性格。活発なジョーとは一見真逆なタイプでありながらも互いを応援し合うソウルメイトのような関係性で、こうした二人の絆はドラマにも生かしたいと思いました。衿は四姉妹の中で“天使”のように愛されつつも、ある秘密を抱えており、最も謎めいた役どころです。今後どうなるのか楽しみにしていただけると嬉しいです。


あとは、小説でも大人気の、ジョーと幼なじみ・ローリーの性別の垣根を越えた唯一無二の親友という関係性。ドラマでも涼と幼なじみの律(一ノ瀬颯さん)が信頼し合っていて、二人だから話せるいたずらっぽい会話なども取り入れたいなと思いました。


どんな女性の生き方にも正解・不正解はない、それぞれの人生を肯定するドラマ


—— ドラマの視聴者や、これから本を読んでみようという人にぜひ伝えたいところを教えてください。

森さん:小説でも描かれているマーチ家の四姉妹、個性や価値観がバラバラなところが素敵だなと思っています。全然違う個性、性格を尊重し合いながら、フラットな関係で、それぞれがありのままで存在しています。大喧嘩してもケロッと仲直りしたり、みんなではしゃいだり、泣いたり、笑ったり、友達とはちょっと違う姉妹の関係性は、私は一人っ子なので非常に憧れがありますね。撮影現場でも四姉妹役の皆さんは一緒に着替えたり、和気あいあいとにぎやかで、本当の姉妹みたいに仲が良くて微笑ましいです。

涼を演じる堀田さんは、どんなときでもにこやかで穏やか。誰に対しても柔らかい雰囲気で接してくださる方です。一方、涼はかなり感情表現が豊かで、良くも悪くも猪突猛進。毎日トライ&エラーを繰り返しながらも、人生を一生懸命に生きている、がむしゃらなキャラクターです。過去に他の作品で堀田さんのお芝居を拝見した際、芯の強さや、内から湧き上がってくるようなパワフルさが垣間見える瞬間がありました。堀田さんなら、弱さと強さを抱えた涼の、波のような感情の揺れ動きを、自然体かつ繊細に表現してくださるのではと思い、オファーさせていただいた次第です。

今回ドラマ化を考えついたのも、女性の幸せ=(イコール)恋愛・結婚という価値観ではなくなってきて、女性が多様な人生の選択をできる時代になってきた今だからこそだと思います。『若草物語』では、いろんな女性の生き方と選択肢が描かれており、そこに正解も不正解もない。それぞれが思うがまま自由に選択し、ありのままの自分の人生を肯定する物語だと解釈していて、ドラマでもその部分は大切にできたらと思っています。視聴者の皆さんにも、個性や価値観の異なる四姉妹それぞれのハッピーエンドを見届けていただけたら本望です。

日本テレビ系 新日曜ドラマ「若草物語—恋する姉妹と恋せぬ私—」
10月6日(日)夜10時30分~放送
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2024年、日本のとある小さな町。一つ屋根の下、たくましく騒がしく生きてきた町田家の四姉妹。勝気で口が達者な次女・涼(りょう)(堀田真由)は、脚本家志望だったものの訳あって今はドラマ制作会社で助監督として働き、慌ただしい毎日を送っている。「私は恋も結婚もしない。一生姉妹で暮らしたい!」――恋愛至上主義の風潮に抗いながら生きる涼のもとに、ある日大御所脚本家が書いたドラマの監督を務めるチャンスが巡ってくるが……。

仕事、恋愛、結婚、夢……避けては通れない人生の難題にぶつかっては、トライ&エラーを繰り返しながらも、それぞれの幸せを模索する四姉妹。彼女たちがたどり着く、四者四様のハッピーエンドとは……!? 

原案は、アメリカの作家、ルイザ・メイ・オルコットが手がけた不朽の大ベストセラー「若草物語」。「もしあの四姉妹が令和ニッポンに生きていたら…」という着想から、舞台を大胆に現代に置き換えて描かれる、社会派シスターフッドコメディー。ストーリーの中心となる町田家の四姉妹を、主演・堀田真由(次女)、仁村紗和(長女)、畑芽育(四女)、長濱ねる(三女)が演じる。


●プロフィール
森有紗(もり・ありさ) 

2014年に日本テレビに入社。これまでプロデュースに携わったドラマは、「プリティが多すぎる」「ファーストペンギン!」「紅さすライフ」など。メインプロデューサーを務める「若草物語—恋する姉妹と恋せぬ私—」が10月6日(日)から放送予定。

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●聞き手
住井麻由子(すみい・まゆこ)

昨夏発足したアメリカマサチューセッツ州にあるルイザ・メイ・オルコットのオーチャード・ハウスミュージアム海外初公認の愛読者団体、「若草物語クラブ」事務局長。一般社団法人若草物語クラブ・オブ・ジャパン専務理事。
「若草物語クラブ」は今秋から広く一般会員募集と活動を本格化する予定です。

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取材・文/住井麻由子
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