彼女たちは、血まみれになって何と闘っていたのか
全5話なので、身構える必要なく見ることができます。松本香がダンプ松本へと変貌した後も見応え十分。ゆりやんが本物のダンプ松本にしか見えないほど。チェーンやフォークを使ってリングの上で相手を血だらけにするシーンは少々エキセントリックですが、彼女たちの体当たりの演技に目が離せません。
「クラッシュ・ギャルズ」と本気でぶつかり合い、「極悪同盟」が結成された裏話にも力が入ります。斎藤工らが演じる、全女を創業し運営する松永兄弟たちは男社会の象徴であり、彼女たちが自由を手に入れようと彼らと闘う姿こそが涙を誘うのです。実際の当時の女子プロレスの盛り上がりを記憶していればなおさら。なぜ彼女たちが血まみれになって、極悪になって、闘っていたのか。その真意を知る価値があります。
「うちはクラッシュの引き立て役じゃねえよ」
ダンプ松本が松永兄弟に言い放ったこの台詞も反骨精神たっぷり。ベビーフェイス(正統派)のためにヒールがあるという男たちが考える単純構造からの脱却を図るのです。悪役だって、光り輝く。それぞれの役割があるから、女子プロレスを盛り上げることができる。そう考えたダンプ松本をはじめ彼女たち自身で道を切り拓いていくのです。
加えて、単純な男女の対立構造で描かないバランスの良さも心地よく映ります。何者でもなかった時の松本香に声をかける松永兄弟の兄(村上淳)の言葉がきっとダンプ松本へと導いていったのではないかと思わせるのです。
「結局は、好きなように生きたヤツが勝ちなんだよ。おねえちゃんがこうと思った道に自信持って進めばいいよ」。
たとえ女子プロレスに詳しくなくても、誰の心にも響く言葉がちりばめられています。ちなみに、作品の中で笑える要素は少なめ。ただし、当時、嫌がらせあるあるのカミソリが仕込まれたファンレターや、ドラマ「積み木くずし」さながらのヤンキー姿なども再現されているのがある意味面白さにもなっています。
負けたら坊主になることを賭けた「敗者髪切りデスマッチ」という試合タイトルそのものも懐かしさがあります。思わず当時の試合映像を探したくなるほど。現在も現役のジャガー横田や、自身のYouTubeチャンネルで発信するブル中野なども追っかけたくなります。今に繋がっていることを実感できるからこそ、何度でも深く楽しめる作品なのだと思います。
構成/山崎 恵
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