また、診断を受けることで、自分の健康状態を正確に知ることができます。これは一人ひとりの「知る権利」を尊重するものであり、大切なことです(参考文献1)。実際、ある研究では、認知症と診断された人の89%が診断を知りたかったと答えています(参考文献3)。また別の研究でも、診断を受けた人の91%が診断を受けて良かったと感じ、60%の人がもっと早く知りたかったと答えています(参考文献4)。「親のことを思うと、診断は伝えてほしくない」というリクエストをいただくこともありますが、データが示すものは全く逆なのです。

経済的な面でも、早期診断によって誤解に基づく不要な入院や介護施設への入所を防ぐことで、医療や介護の費用を削減できる可能性があります(参考文献5-7)。これは、社会全体にとってもメリットのあることです。

一方で、認知症の診断には心配な面が指摘されているのも事実ではあります(参考文献2,8)。例えば、早期に診断を受けることで、うつ病や不安感、社会的な孤立感が増す可能性が考えられます。特に、診断後に適切なサポートやケアが受けられない場合、そのリスクが高まります。しかし、アメリカでの大規模な研究では、認知症や軽度認知障害と診断された人は、診断されないままの人よりも、自殺のリスクがむしろ低いことも示されています(参考文献9)

「認知症かも?」と感じた時に、本当に受けるべき診断はコレ! 早めに受けるべき?本人に結果は伝えないほうがいい?【山田悠史医師】_img0
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このような理由から、認知症の早期診断は、適切なサポートを前提とする必要がありますが、本人や家族が前向きに生活を続けるための重要なステップと言えます。早めに専門家に相談し、適切なサポートを受けることで、不安を減らし、より良い未来への準備ができるのです。

ただし、症状のない人に対して認知症の検査を行うことについては、十分な根拠は確立されていません。このため、アメリカの予防医学専門委員会(USPSTF)は、症状のない高齢者に対して認知症の検査を行うことを推奨していません(参考文献10,11)。あくまで、疑わしい症状のある人のための検査だということです。

 


診断のプロセス


それでは次に、どのように認知症の診断が行われていくのかを見ていきましょう。
まず、認知症の評価には詳細な情報収集が必要となり、通常の診察時間では完了できないことも多いため、初回に長めの診察時間を設けたり、後日の再診が必要になったりすることも稀ではありません。それは時間の無駄で、手っ取り早い検査が一番と思われるかもしれませんが、正確な診断や原因の追求のためには、これこそが最も重要なプロセスになります。

患者さんには、家族や親しい友人など、普段の様子をよく知っている方に同行してもらうと良いでしょう。これにより、患者さんが自覚していない症状を伝えたり、医師からの説明を一緒に聞いて覚えておく手助けができたりします。