世界最高峰の老年医学科で働く山田悠史医師が、脳の老化と認知症の進行を遅らせるために「本当に必要なこと」「まったく必要でないこと」を伝えます。
山田 悠史
米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ「ライブニュースα」レギュラーコメンテーター、「NewsPicks」公式コメンテーター(プロピッカー)。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。
X:@YujiY0402
Podcast:山田悠史「医者のいらないラジオ」
Spotify Apple Podcasts Anchor Voicy
問診に続く身体診察と必要な検査
前回は、認知症診断の最初のステップである、医師による問診についてお伝えしました。その続く身体診察では、他の病気の可能性を除外するため、頭からつま先までの診察を丁寧に行っていきます。例えば、脳卒中の後遺症やパーキンソン病のような症状(筋肉のこわばりや震え)の有無、歩行の様子、眼の動き、耳の中などを確認します。一部の認知症ではこうした診察所見に異常が見られる一方で、アルツハイマー型認知症の患者さんでは、初期にはこうした運動や感覚の異常が見られないことが多いです。
この身体診察も、特別な検査を要するわけではなく、すべて保険診療の範囲内で完結するものです。しかし繰り返しになりますが、これが最も重要なプロセスなのです。
このような過程が重要であることを物語るエピソードをここで一つ紹介しましょう。
Yさんは80歳代の女性。家族が最近会話の辻褄が合わなくなったと心配し、家族に連れられてかかりつけ医のもとを訪れ、認知機能検査を受けました。この検査の結果、スコアが低かったため、認知症の疑いがあるということで、私のクリニックを訪れました。残念ながら、かかりつけ医では認知機能検査を行っただけで、それ以外の診察はあまり行われていなかったようです。
そこで、私はまず慎重にYさんのお話を伺っていくことにしました。すると、音があまり聞こえていない様子に気がつきました。これは何か耳に問題があるのかもしれないと、診察の際にまず耳の中を覗きました。すると、驚くことに両側の耳の穴にたくさんの耳垢が詰まっていて、両側ともに鼓膜が全く見えなかったのです。
そこで、耳垢を溶かす薬を処方し、2週間後に戻ってきてもらうことにしました。すると、どうでしょう。音が聞こえやすくなり、家族との会話がスムーズになったというのです。認知機能検査をその時点で行ってみると、スコアは正常範囲内でした。
Comment