一方、これらのタンパク質がPET検査で見つからない場合には、アルツハイマー型認知症である可能性は低いと言えますが、他の原因による認知症になる可能性は否定できません(参考文献5)。なので、結局認知症ではないとも将来認知症にはならないとも言えません。つまり、PET検査だけで認知症の診断を確定することは難しいのです。
また、PET検査は、特殊な設備が必要で費用が高く、放射線への被曝もあり、時間もかかるので患者さんへの負担は大きくなる点も見過ごすことはできません。最近では、血液検査でアルツハイマー病の兆候を捉える研究も進んでおり、将来的にはより手軽な方法で診断が可能になると期待されています。ただ、それらの検査も認知症かどうかを知らせてくれるわけではありません。PET検査と同じく、アミロイドβが見つかっても認知症を発症しない方が多くいるのです。
ただし、PET検査のような特殊な検査が必要になる場合もないわけではありません。これは、他の検査では診断が難しい特殊なケースや、新しい治療法の適用を検討する際、研究目的で詳細な情報が必要な場合などです。
あまり問題がないのにPET検査を受けることは、電化製品の修理に例えると分かりやすいかもしれません。電化製品に不具合が生じた時、まずはよくある問題を確認し、簡単なチェックを行うでしょう。それで問題が見つかれば、わざわざすべて分解してパーツを変えるような高額な修理に出す必要はありません。しかし、どうしても原因がわからない場合や、パーツ交換が必要なときには、詳細な調査と高額な修理が必要になることがあります。
認知症を疑ってはじめからPET検査を受けるのは、電化製品の不具合でいきなり高額な修理に出し全部分解してしまうようなものです。それでは、費用も時間も見合わず、結局パーツには何も不具合は見つからず徒労に終わってしまうかもしれません。
これまで考えてきたように、認知症の診断に必要なのは、医師の問診と診察、そしてどこのクリニックでもできる血液検査±1回のCTまたはMRI検査だけです。また、これらはすべて保険診療の範囲で行われるものです。自由診療で行われる特殊な遺伝子検査やPET検査はほとんどの場合必要はありません。もちろん、こうした状況は今後の治療薬の開発や保険適用の変更に伴い変わっていく可能性があります。しかし、現状ではこれだけで十分なのです。
本当に必要な検査
・医師の問診と診察
・どこでもできるような限られた血液検査
・症状により頭のCTやMRI検査
(これらはすべて保険診療の範囲内で行われます。)
『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社
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高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。
一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
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ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。
参考文献
1. Karlawish JHT, Clark CM. Diagnostic evaluation of elderly patients with mild memory problems. Ann Intern Med [Internet]. 2003 Mar 4 [cited 2024 Oct 4];138(5):411–9. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12614094/
2. Knopman DS, DeKosky ST, Cummings JL, Chui H, Corey-Bloom J, Relkin N, et al. Practice parameter: diagnosis of dementia (an evidence-based review). Report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology [Internet]. 2001 May 8 [cited 2024 Oct 4];56(9):1143–53. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11342678/
3. Geschwind MD, Shu H, Haman A, Sejvar JJ, Miller BL. Rapidly progressive dementia. Ann Neurol [Internet]. 2008 Jul [cited 2024 Oct 4];64(1):97–108. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18668637/
4. Jansen WJ, Janssen O, Tijms BM, Vos SJB, Ossenkoppele R, Visser PJ, et al. Prevalence Estimates of Amyloid Abnormality Across the Alzheimer Disease Clinical Spectrum. JAMA Neurol [Internet]. 2022 Mar 1 [cited 2024 Oct 4];79(3):228–43. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35099509/
5. Brookmeyer R, Abdalla N. Estimation of lifetime risks of Alzheimer’s disease dementia using biomarkers for preclinical disease. Alzheimers Dement [Internet]. 2018 Aug 1 [cited 2024 Oct 4];14(8):981–8. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29802030/
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