観念して通い始めた教習所は、雪原の中にあり、今日は臨時休校とメールがきた。おじいちゃん教官たちが除雪をしてくれるのが常だったが、きっと昨夜からの降雪量じゃそれも間に合わないのだろう。駅とイオンから乗せてくれる教習所のスクールバスも、国道が危ないだろうし。
――免許をとってから、仕事を探したほうが選択肢は広がるし……はやく取りたいのにな。
焦る。単調な窓の外の景色を見ていると、なんだかこのままでもいいような気もしてきて、布団に潜り込もうかという気分。ついに向上心もなくなってしまったのか……。
そのとき、スマホから大音量で着信音が流れた。しんとした部屋で、その電子音がとてもはっきりと鼓膜を振るわせる。この電話に昼間、かけてくれるのは……。
「はーい、理絵ちゃん? 亜紀です」
嬉しそうすぎるのが声のトーンに出ていないだろうか。必死で年上の分別を見せようとしたけれど、なんせ遼平以外のひとと話すのが3日ぶりくらいだから、仕方ない。
「亜紀ちゃん、こんにちはー! 今、何してる? え? 暇してる?
よかった、これからお料理会を先輩のお宅でするんだけど一緒にいかない? 亜紀ちゃんに紹介したい素敵な人、いっぱいいるんだあ」
「え!? 本当? うんうん、ぜひ一緒に行きたい!」
お料理にさっぱり興味なんてなかったけど、私は前のめりに返事をした。
これ、チャンスじゃない!?
きっと地元の同世代の女の人が集まっている。もしかして、友達の輪が広がっていくかも……!
「じゃあ、ノートとスマホと、おすそ分け用のタッパーを持ってきてね。それからエプロンも。細かいお金も持っていくといいと思う。飲み物は持ち寄りだから、私が麦茶を沸かしていくよ」
わかった、と言いながら急いでメモを取る。結構本格的なお料理会なのかな……? 飲み物が持ちよりならば、手土産に家にある美味しいスパークリングと、ノンアルコールのオーガニックジュースを持っていこう。
私はうきうきと身支度を始める。みんなでお料理をするならば、清潔感があって、動きやすい服がいいはず。
それにしても、理絵ちゃんのお誘いって本当にタイミングが絶妙だ。会っているときはすごく人懐こいけれど、用事のない日に連絡はない。そして荒天が重なって外出もできず、寂しい気持ちのときに、こんなふうにお誘いが来る。
まるで私が弱っているタイミングを知っているように。
――本当、ありがたい……理絵ちゃんて何でもお見通しなのかな?
私は久しぶりにスウェット以外の洋服を吟味しながら、とっても気分が高揚していた。
次回予告
果たして料理会に行ってみるとそこにいたのは……?
イラスト/Semo
編集/山本理沙
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