最近話題の新薬の効果と副作用


また、先に紹介した薬に加えて、最近では新しい抗体製剤にも注目が集まっています。これらの薬は、アルツハイマー型認知症の原因の一つとされる「アミロイドβ」という物質を狙って作用します。具体的な薬剤として、レカネマブ、ドナネマブなどがあります。

これらの薬は、いずれも注射薬なのですが、軽度認知障害(MCI)や初期のアルツハイマー型認知症の進行をわずかに遅らせる可能性があると報告されています(参考文献5)
と同時に、懸念すべき副作用リスクも報告されています。特に、「ARIA(アミロイド関連画像異常)」と呼ばれる脳のMRI画像で確認できる異常があり、脳のむくみや小さな出血が起こる可能性があります(参考文献5,6)

さらに、これらの薬は非常に高価で、多くの費用がかかります。医療保険の適用の妥当性や長期的な費用対効果についてはまだ明らかではありません(参考文献7)
このように、新しい抗体製剤は認知症治療の新たな可能性を示していますが、課題が山積しています。今後の研究に期待を持ちつつ、今はまだ同様に検討すべき薬とは言い難い現状があります。

 


薬を適切に使えば、その人らしい充実した生活を送れる可能性も


いずれにせよ、認知症の治療やケアは、一人ひとりに合わせたオーダーメイドのアプローチが必要です。薬の効果や必要性も人それぞれですので、主治医とよく相談し、個々の患者さんに合ったアプローチを探る必要があります。

「認知症に本当に必要な薬」はごくシンプル!老年医学専門医が、保険適用の古典的な2つの薬を勧める理由【山田悠史医師】_img0
写真:Shutterstock

まとめると、「本当に必要な薬」となりうるのは、コリンエステラーゼ阻害剤とメマンチンの2種類です。また、今回はご紹介しませんでしたが、抗うつ薬や抗精神病薬といった薬も、認知症で見られる行動の異常に対して使用されることがありますが、それらは主要な認知機能に対する治療ではありません。

使用が困難なケースもありますが、薬を適切に使いながら、専門家と家族とで協力して治療をしていくことで、認知症になっても、その人らしい充実した生活を送ることができている方はたくさんいることは事実としてお伝えできることです。

「認知症に本当に必要な薬」はごくシンプル!老年医学専門医が、保険適用の古典的な2つの薬を勧める理由【山田悠史医師】_img1

『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社

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高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。

一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。

ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。


参考文献
1.    Livingston G, Huntley J, Liu KY, Costafreda SG, Selbæk G, Alladi S, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet [Internet]. 2024 Aug 10 [cited 2024 Aug 10];404(10452):572–628. Available from: http://www.thelancet.com/article/S0140673624012960/fulltext
2.    Profyri E, Leung P, Huntley J, Orgeta V. Effectiveness of treatments for people living with severe dementia: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled clinical trials. Ageing Res Rev [Internet]. 2022 Dec 1 [cited 2024 Oct 20];82. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36243355/
3.    Xu H, Garcia-Ptacek S, Jönsson L, Wimo A, Nordström P, Eriksdotter M. Long-term Effects of Cholinesterase Inhibitors on Cognitive Decline and Mortality. Neurology [Internet]. 2021 Apr 27 [cited 2024 Oct 20];96(17):E2220–30. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33741639/
4.    Zuin M, Cherubini A, Volpato S, Ferrucci L, Zuliani G. Acetyl-cholinesterase-inhibitors slow cognitive decline and decrease overall mortality in older patients with dementia. Sci Rep [Internet]. 2022 Dec 1 [cited 2024 Oct 20];12(1). Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35842477/
5.    CH van D, CJ S, P A, RJ B, C C, M G, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med [Internet]. 2023 [cited 2024 Oct 20];388(1):142–3. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36449413/
6.    Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, Lu M, Ardayfio P, Sparks J, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA [Internet]. 2023 Aug 8 [cited 2024 Oct 20];330(6):512–27. Available from: https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2807533
7.    Liu KY, Walsh S, Brayne C, Merrick R, Richard E, Howard R. Evaluation of clinical benefits of treatments for Alzheimer’s disease. Lancet Healthy Longev [Internet]. 2023 Nov 1 [cited 2024 Oct 20];4(11):e645–51. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37924845/


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