——幼い頃から歌舞伎の修行をし、大学にも通っていたとのことですが、学業はいかがでしたか?

学業はダメダメでしたが、そこに目をつぶってくれるような学校だったんですよ(笑)。学校でも僕は人の出会いに恵まれていて、興行で1ヶ月授業を休んでしまっても先生や友だちに支えられて、最終的には辞めてしまったのですが4年まで通うことができました。今思うと、歌舞伎と学業の2軸があったから自分を保てていた部分もあります。興行中は試験勉強ができないくらい芝居漬けだし、大変でしたけれど、やっぱり本名の琢磨でいられる時間と、梅丸(莟玉の前名)になる時間があって、自分の中でスイッチを切り替えることができたからこそ精神的な安定を保てていたような気がします。そして、しっかりと学生時代を楽しんだからこそ、その後、梅玉に養子入りして歌舞伎一本で生きていく決断ができたのだと思います。

——出会いに恵まれたとはいえ、莟玉さんご自身に才能があったからこそ、周囲の方々から大切にされてきた部分もあると思います。現時点で、ご自身の武器はどこにあると思いますか?

意外と頑固なところだと思います。やっぱり僕が歌舞伎をずっと好きでいられるのは、固執するタイプだから。執着心がものすごく強いんです「自分はこれをやりたい!」という気持ちを口に出すことはあまりないのですが、念が通じることがあって。例えば莟玉を名乗ることになったときに、お披露目のお役は何年も前から心の中で「これがいい」と思っていたお役をいただけたんです。誰にも伝えたことがないのに、望み通りになった。周囲の方々から見たら願望がバレバレだったのかもしれませんが、それぐらい歌舞伎に対してブレずに強い愛情を抱いています。これはずっと変わらないですね。

【中村莟玉】人間国宝の養子であり歌舞伎界のホープが「歌舞伎一筋」のスタイルから一歩踏み出した理由とは?_img0
ジャケット¥97900、パンツ¥70400/エンポリオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン tel. 03-6274-7070) その他スタイリスト私物
 


舞台『応天の門』

【中村莟玉】人間国宝の養子であり歌舞伎界のホープが「歌舞伎一筋」のスタイルから一歩踏み出した理由とは?_img1
 

灰原薬の人気漫画『応天の門』を舞台化。学問の神様と称される菅原道真と、平安の色男・在原業平がタッグを組み、都で起こる怪事件を次々と解決していく平安ミステリーサスペンス。道真を佐藤流司、業平を高橋克典が演じる。キャストには花總まり、中村莟玉、高崎かなみ、本田礼生、篠井英介、西岡徳馬などが名を連ねる。明治座にて2024年12月4日(水)から12月22日(日)まで公演が行われる。

 

撮影/嶋田礼奈
スタイリング/藤長祥平
ヘアメイク/塩田勝樹(Sui)
取材・文/浅原聡
 
【中村莟玉】人間国宝の養子であり歌舞伎界のホープが「歌舞伎一筋」のスタイルから一歩踏み出した理由とは?_img2