「ほら、今日も“会社”行かなくちゃ!」の声かけ
——なんでそんなに違いがはっきりしているんでしょうね。
村上:今ご高齢の団塊世代は、そうした男女の違いが出やすいのかもしれません。日本の急成長を支えた世代の男性たちですから、高いプライドがあるんですよね。でも、例えば外出を嫌がる男性には、スーツを用意して「ほら、今日も“会社”行かなくちゃ!」「ちょっと“お客さん”から頼まれてるからお願い!」と言うと、「わかった」とすんなり着替えてくれたりするんです。
今は社会が変わってきていて、バリキャリの女性だったり、逆に男性が育休を取って家庭的になったりしていますから、今後は介護現場の“男女の違い”にも変化があるかもしれないですね。
女性は“推し”が心の励み。男性のセクハラ対応にはコツが必要
——やっぱり職員さんへのセクハラ発言などは、男性が主ですか……?
村上:私が働いていた時は、女性がそのような発言をしているのを聞いたことはありません。そこは男性だけでした。女の子のお尻を触ったり、介助も女の子がいいって言ったり。これはセクハラではないですが、ご自分の部屋で自慰行為をしていたりとか。
——本の中でも、90歳近い男性の自慰に遭遇したエピソードが書かれていましたもんね。一方、女性もさっきおっしゃっていたみたいに、爽やかな男性の職員にテンションが上がることもあるんですよね。
村上:どちらかというと、「かわいがってる」みたいな感じですね。性欲とは別なんです。あくまで、「推し」みたいな。
——「息子」みたいな感じなのかもしれませんね。
村上:アイドルみたいな。でも、男性の場合は女性職員に対して、「本気モード」を感じることもあるんですよね。そうすると、普通ならその男性を「かわいい」とは到底思えないと思うんですけど、介護職の場合は、それでもいかに「かわいい」と思って受け流せるかが勝負なんです。
——「俺は、あんな、ばあさんはイヤだ。もっと若いのがいい」という男性に対し、「自分だって、おじいちゃんなのに、なにを言っているの」と返したエピソードが出てきますが、うまいなと思いました。
村上:でも、そういう言い方をしたらめちゃくちゃ怒るタイプの人もいるんですよ。人によって、声かけは変えなきゃいけない。それは、キャバクラも一緒だと思います。どうしたらこの人は気分良くいられるか。その対処法は人によって違うので、そういう部分はキャバクラで学んだかもしれないですね。
——確かに、男性の自尊心を傷つけないように伝えるってテクニックがいりますよね。
村上:例えば、セクハラ発言された時、「あなただっておじいちゃんのくせに〜」と普段は軽くいなして笑ってくれる人でも、笑ってくれない時があるんです。いつもは言われても平気だけれど、「今それを言われたくない」みたいな時は誰しもありますよね。そいう時は、やっぱり表情とかにも出ていたりするんです。
「今日元気ないな」「何かあったのかな」とか、そういう空気を読み取る力は、やっぱり介護の仕事だけで培われたものじゃなくて。私の場合は、キャバ嬢を経験したことも含め、今までの人との関わりで身についてきたことなのかなって思います。
『ナンバー1キャバ嬢 ピカイチ介護士になる』
著者:村上知美 径書房 1870円(税込)
元キャバクラ嬢から介護士へ転身! 20年近く介護の現場で活躍してきた著者が、介護のリアルを語る一冊。特別養護老人ホームで働き、これまで多くのお年寄りと関わってきた経験をもとに、お年寄りが人生を終えるその日まで「自分らしく生きること」をお手伝いする介護の仕事、そのやりがいや魅力について、著者が前向きな気持ちを綴ります。
撮影/加藤夏子
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵
第1回「キャバ嬢が介護士に!セクハラ、ハプニングへの対処...キャバ嬢の経験が活きた、「つらいことは半分で受け止める」コツ」>>
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