日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは「ちゃちゃちゃんちゃちゃちゃんちゃちゃちゃんちゃん」です。いよいよ師走……、お涼さんがここ数年、足を運んでいる年の暮れの風物詩とは。

「抜け駆けはなしやで」酉の市で初めての熊手を買った日から2年。寿ぎのディスコで刻む年末のリズム【坂口涼太郎エッセイ】_img0
 

神と契約して2年目。
今年も酉の市の季節がやってきた。

お祭り好きの私は神社仏閣に屋台が出ているのを見つけては吸い寄せられるように様子を見に行き、やきそばたこやきじゃがばたからあげりんごあめとうもろこしらむねびーるなどをいただいて毎度ふぉふふぉふしているのだけれど、新宿・花園神社の酉の市を知ったのも、ある日大通りに屋台がずらーっと並んでいて、歌舞伎町やゴールデン街のネオンと、屋台の提灯の明かりが時空を歪めて共存しているみたいでとてもかっこよく、前のめりの競歩でつま先に全体重をかけながら花園神社に転げ込んだのがはじまりだった。

そこにはきんぴかぴんに輝いた世の中の縁起ものとされる象徴物がこれでもかと飾りつけられた様々なサイズの熊手があり、ところどころでちゃちゃちゃんちゃちゃちゃんちゃちゃちゃんちゃんという寿ぎの三本締めがカエルの合唱のように輪唱されて、まるで寿ぎトランス状態のディスコみたい。大都会の中で行われる原始的なお祭りはその空間だけ江戸時代にタイムスリップしたみたいで、ここから連綿と受け継がれ、ディスコやクラブやシャンパンコールに発展してきたのだろうかと時の流れに思いを馳せながらやきそばをずぼぼっとすするお涼なのです。

酉の市の熊手は毎年大きくしていくのが理想であるということを私はなんとなく知っていて、ということは一度熊手をお迎えしたらこの身が尽きるまで大きくし続けないといけないということで、もちろん大きくしていくということはお値段、お布施の金額の方も大きくなっていく。

だから、毎年お祭りには参加するけれども、熊手は鑑賞物。
「わー! 今年もすごいねー! きれいだねー! 見てあれ! スター・ウォーズの飾りがついてる! 確かにヨーダなんてもはや七福神として扱われてもいいものよね! しれっと紛れててもまったく違和感がないものね! わーきれいやねー!」と言って素通り。

目的は屋台のやきそばetc.であり、商売繁盛より胃袋繁盛を願い、達成するための参拝だった。

 

しかし、ついに私はある年、神及び熊手毎年拡大化プロジェクトと契約する運びとなる。

発端は幼馴染のヘアメイクおカーリーに髪を切ってもらっているとき、もうすぐ酉の市だね、なんて話をしていたら、おカーリーはその年自分のヘアサロン兼カフェを開店し、お子を出産し、ものすごく特別な33歳になった年であり、おカーリーのソウルナンバーという生年月日の数字を全部足した数字も33であり、それは割と珍しく、説明書きにも「あなたは宇宙人です」と書いていて、「私は宇宙人らしい」と自分が宇宙人と自覚して1年目。そんないろいろが重なって、そろそろ私も他の店舗に飾ってあるような酉の市の熊手を自分のお店にお迎えしようと思ってるねん、と話していて、私は「ええやーん」と賛成していたのだけれど、おカーリーが「そういえばお涼のソウルナンバーはなんやろう?」と調べれば「33」であり、「一緒やーん! 宇宙人やーん!」と私は唐突に自分が宇宙人だという認定を受け、宇宙人1年目の新人としてよろしくお願いしたい所存になり、おカーリーはこんなにも近くに同じ宇宙人がいるということに大興奮。

「お涼も来年33歳やろ!? 我らのスペシャルミラクルナンバー33番の売り場で一緒に熊手をお迎えしようや!」と渋谷区神山町のビルの一室にいるふたりの宇宙人は約束を交わし、花園神社へ向かったのであった。

 
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