2016年は日本とイタリアが修好条約を結んで150周年。そして折しも、有田焼が創業して400年という節目を記念して、イタリア大使館公邸にて「骨董イタリアン」が開催されました。

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前菜のパプリカのロースト。「最初のお料理には正装っぽい雰囲気がふさわしいと思い、輪島塗りのお重を縁高(ふちだか)に見立てました」と三嶋さん。

有田(伊万里焼)の骨董にイタリアンを合わせる!? 意外に思われるかもしれませんが、イタリア家庭料理研究家の山中律子さんと友人の骨董コーディネーター・三嶋亜希子さんのコラボで、なんともモダンで素敵なテーブルコーディネートに! 山中さんと三嶋さんは、「イタリアの家庭に脈々と受け継がれてきた素朴なマンマの味だからこそ、江戸の昔から日本人の生活の中で活躍してきた器は響き合うものがあります」と言います。

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この会の主催者は、駐日イタリア大使夫人のリータ・マネッラ夫人(写真右)。かねてより日本の文化や芸術に造詣の深いリータ夫人が、「日本とイタリアの文化融合」をテーマに各国の大使夫人などお客様を招待する形で、この日の会が実現しました。料理を担当したのはイタリア家庭料理研究家の山中律子さん(写真左)。会社員でありながら、毎年、有給休暇をまとめ取りして子連れでイタリア各地の田舎に滞在し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習っているそう。自宅アトリエ「リストランテ・リッツ」にて料理教室やイベントを主宰。著書に『トルテリーニが食べたくて』(集英社)。小学館webメディア「しごとなでしこ」にて「今夜もボナペティート」連載中です。
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この日使われた器と皆敷(料理に添える木の葉など。和食の盛り付け文化)を用いた盛付けのコーディネートを担当したのは骨董商の三嶋亜希子さん。三嶋さんは20代前半に仕事で出会った骨董の器に魅せられ、仕事の傍ら骨董屋に弟子入り。広告制作会社、広告代理店勤務を経て、2013年より本格的に骨董商として起業されました。皆敷を用いた器づかいでも知られ、季節感や情景を表現した、独自の皆敷のスタイルを提案。現在では「器と、そのまわり 杜鵑草(ホトトギス)」を営業しながら、骨董の器と皆敷のワークショップや執筆活動など精力的に普及活動を行っています。「器と、そのまわり 杜鵑草」 HPはコチラ>>Facebookはコチラ>>

 

骨董は難しい気がする……そんな風に尻込みする人も多いと思いますが、今回の大胆な試みには、理屈抜きで感性のおもむくままに料理と器のコーディネートを楽しむヒントがたくさんありました。

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日本庭園が広がるイタリア大使館のロビーには、大振りの塗り椀がインテリアにプラスされていました。洋の雰囲気のソファや床との相性も◎。
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縁高(ふちだか)に見立てた輪島塗りのお重をメインにテーブルセッティング。「大使夫人のご厚意で庭園の葉っぱを使って皆敷のコーディネートをすることができ、感激しました」と三嶋さん。このコーディネートを大広間で見たゲストたちからは大きな歓声が! 敷かれているのは、うらじろ、松葉、ゆずり葉。膨らみかけた蕾のついた椿と葉を漆の艶(あで)さと合わせてみました」と三嶋さん。
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「艶やかな輪島塗りのお重をインテリアにすれば、おめでたい空間の演出に。洋花と合わせると渋くなりすぎないのかもしれません。また、お重は本当に使い勝手良く、どんなテーブルコーディネートにも応用できるんですよ」
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イタリア家庭料理の中でも山中さんがこよなく愛するパスタ、トルテッリーニの実演会も催されました。日本のイタリアレストランではなかなかお目にかかれない、ボローニャ~モデナ地方の手打ちパスタです。中の餡は、豚肉、生ハム、ボローニャのモルタデッラ(ソーセージの一種)、パルミジャーノ・レッジャーノなどを混ぜたもの。
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「私も5、6歳のとき、キッチンでトルテッリーニの作り方を祖母から教わったわ。イタリアの家庭料理はそうやって受け継がれてきました。ちなみに、生地を伸ばす作業は大変だけど、すごくリラックスできる時間でもあるの。夫と子どもの大好物で、夫は若い頃は50~60個は食べていたわね」と大使夫人。
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トルテッリーニの実演会中、厨房では三嶋さんが器に料理を盛っているまっ最中でした。最初にしつらえたお重に入れる前菜は伊万里焼などの小さな「のぞき」に。
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伊万里焼を中心とした「のぞき」に盛られた、白インゲンのキャビア和え。こちらは盛りつけ途中の様子。これからインゲンの量を減らしたり、全体を整えていきました。

実際にイタリアの田舎の家庭をまわって郷土料理を学んできた山中さんは、「小麦粉と卵で作るトルテッリーニの生地ですが、イタリアのおばあちゃんたちは長い麺棒を使ってまるでスカーフのように自在に伸ばしていくんです。ラビオリのように中に餡を詰めた出来上がりは、小さければ小さいほど良しとされています。指に巻きつけて指輪状にするのですが、“私は小指に巻きつけて作れるわ”と言って自慢したりするんですよ」
なんだか、日本の料理上手のおばあちゃんと同じテンションのような気もしますね。

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シンプルなブイヨンスープでいただくトルテッリーニ。「弾力があって噛みごたえが新鮮」「青の染付け【なます皿】に華やかな九谷焼の絵皿との重ね使いが素敵」とゲストたちからの声。
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赤ワインで煮詰めたラディッキオ(チコリの仲間)のリゾットは漆器、輪島塗りのお椀でサービスされました。まるでお赤飯が盛られているごとくしっくりと不思議なほど馴染んでいます。こちらは木製のスプーンでいただきます。
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「デザートのパンナコッタを盛った長皿は1枚1枚手描きで絵付けがされたものです。ちょっとゆがんでいても、それもまた個性です。当初は違った葉っぱを準備していたのですが、急遽大使館のお庭の楓を添えることに変更しました」と三嶋さん。

三嶋さんの「そもそも器は、盛られる料理と季節感が三位一体となってはじめて生きてくるものです」という説明に、「日本に来て、イタリア料理は何かとてもシンプルな、どちらかというと単純な料理だと思われているなという印象を持ちました」と語る大使夫人。
「でも、イタリア料理はシンプルなマンマの味でありつつもエレガントな部分もあるし、将来性もある料理だと私は思っています。だから、今日のイベントで、和食のようにシンプルさの内にエレガントさを表現できる可能性……それを感じることができました。山中さんと三嶋さんの実験的な試みを形にできてとても嬉しいです」
和食器とナイフ&フォークでも全然アリ。ルールは抑えつつも、そこだけにとらわれず自由に楽しんでみてはいかがでしょう。また、自宅でのパーティでも、なにかテーマがあるとおいしくて楽しいだけじゃなく好奇心まで満たされそうです。

撮影/白石和弘 構成・文/藤本容子