モノ、情報、そしてコミュニケーションツールが溢れ返る現代。それらを整理することに振り回され、自分にとって本当に必要な時間を持てなくなっている人は、多いのでは? ムダをできる限り削ぎ落し、自分が心地よく居られる時間=人生を増やす——、そんな「シンプルライフ」を提唱しているドミニック・ローホーさんに、mi-mollet世代の「シンプルライフ」の見つけ方を教えてもらいました。


ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。様々な国に移り住む中で、モノを持たず豊かに暮らす「シンプルライフ」を確立。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)がベストセラーに。他に『シンプルリスト』『99の持ちもので、シンプルに心かるく生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅寺や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。


モノを減らしたとき、ものすごく心が自由になった!

限りなく少なく豊かに生きることを提唱した著書『シンプルに生きる』が、全世界で150万部を売り上げるベストセラーとなったドミニック・ローホーさん。自分のエネルギーを奪うモノや人間関係をさっぱり捨て、“今”という時間を堪能したい。そう考え最小限のモノで暮らす「シンプルライフ」を確立させていったそうですが、そのきっかけは何だったのでしょう?

シンプルライフへの第一歩として大事なバッグ選びについて語ったドミニックさんの新著。今回、mi-mollet読者に「Love your bag. Love your Life!」とメッセージを授けてくれたが、まさに、バッグを愛することは人生を愛することである、と感じさせられる1冊。

「きっかけは旅ですね。私は昔から外国に興味があって、あちこちを旅していたのですけど、いつもスーツケースが邪魔で。それで21歳でアメリカに行くとき、バッグ一つで動くことにしたんです。2、3枚の下着だけ入れて、あとは現地で調達すればいいわ、と思ったから。これがものすごく私の心を自由にしてくれました! そこから最小限のモノで暮らすシンプルライフがスタートしたんです。アメリカに滞在しているときは、部屋に置いた家具はマットレスと絨毯だけ。最寄りの街まで70マイルもある田舎だったから、簡単には何も買いに行けなかったんですけど、まったく不自由はありませんでした。日本に来たときも、モノを買いに行ったり整理したりする時間が必要ないから、大好きな墨絵やお寺を見る時間をたくさん持てて、心豊かでしたよ」

シンプルな暮らしの自由さを実感したドミニックさんは、よりムダなく快適に暮らすコツを、思いついたり本で読んだりするたびにノートにメモしていたそう。そのメモが1冊の本になったのが、ベストセラーとなった『シンプルに生きる』だったのです。

「日本で知り合ったフランス人の友人がパリに帰ることになって。『荷物がいっぱいで引っ越しが憂鬱だわ』と言っていたから、『私が助けてあげる』と、モノを整理するヒントがいっぱい詰まったそのノートを貸してあげたんです。そうしたら彼女が『何て素晴らしいの!』と出版社に持ち込んで、あっという間に本にしましょうという話になったんですよ」

シンプルライフとミニマリズムは同じではない

「少ないモノで暮らす」と聞くと、昨今流行りのミニマリストを連想するかもしれませんが、ドミニックさんの説く「シンプルライフ」は、モノを減らすことだけが目的ではありません。どうやって快適に暮らすか、が目的なのです。

 

「私は日本に行ったとき、よくお寺に宿泊しましたが、お寺の生活は余計なものがなくて心が開放されました。だからといってお坊さんをミニマリストとは言わないですよね? そうではなく、質実剛健と言う。中身を充実させて外側を飾らない、という意味です。私が提唱しているシンプルライフも同じなんです。今はモノが溢れ返っている時代。みんな、それによって片付けることや、『どれを使おうかな』と悩むことに追われている。でもモノがないと、外の木を眺めたり、ソファで美味しいコーヒーを飲みながらのんびりする時間が生まれてくるのです」

 一方で、断捨離ばかりして、「モノを減らさなくては」「モノを増やしてはいけない」と圧迫されることも、モノに振り回されているのと同じことだとドミニックさんは言います。

「それも結局、モノにエネルギーを取られているということなんです。シンプルライフの目的は、快適に暮らすために必要最小限のモノを持つこと。だから自分の幸せのために本が必要なら、それはたくさん持ってもいいんです。ギターが好きなら、『生活に必要ないから』と捨てる必要なんてないんです。何でもエクストリームになってはいけません。そうではなく私は心地いい時間を持つために、モノを最適化しているだけ。だから『私はたくさんのモノに囲まれているのが好きなの』という人は、私の本を読む必要はありません。モノが多くて困っている、という人だけ読んでほしいのです」

誰かの真似ではなく、自分だけのシンプルライフを

ドミニックさんが基本的にメディアに顔出しをしないのも、愛用しているモノがどこのモノかを明かさないのも、そういった、読者それぞれの「必要」を想像し、知ってほしいからだそう。

 

「モノの具体的な購入先を明かしてしまうと、『これを買えばシンプルライフが手に入る』と真似をしてしまうかもしれません。顔出しも同様で、具体的なビジュアルを見ると、皆、私のようになろうとする。でもその商品も外見も、あくまで私の“必要”から生まれたモノであって、読んだ人自身の“必要”ではないのです。自分の“必要”というのは、自分がどういう人間か知らなければ分からないもの。そのためには逆説のようですが、多くのモノを持って失敗しなければなりません。私も、『これがあれば他はいらない』という一つに出会えるまで、どれだけお金を使ったことでしょう! だからある意味、シンプルライフというのは50歳くらいまではできないもの。若いうちは、『これは自分に合わなかったから次のモノを』とどんどん試していけばいい。その努力が実るのが、ミモレ世代かもしれませんね」

つまりミモレ世代は、「シンプルライフ」を追求するのに最適な世代とも言えるよう。では自分だけの「シンプルライフ」を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか? そのコツはバッグにある、とドミニックさんは言います。
「バッグは自分のライフスタイルと切り離せないものでしょう。まるで小さな自分の部屋のようなもの。バッグじたいにも、中身にも、持つ人のエッセンスが表れるのです」 

そこで、自分の「シンプルライフ」を見つけるためのバッグ選び、中身の整理の仕方についても伝授してもらいました。是非、後編をご一読ください!

 

新刊コラム●
『マイバッグ 3つのバッグで軽く美しく生きる』ドミニック・ローホー 著 赤松梨恵 訳

自分にとっての理想のバッグを見つけることは、自分がどう生きたいかを見つけることでもある——。大ベストセラー『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)で知られるドミニック・ローホーさんの最新刊は、人生を豊かにするために欠かせないアイテムであるバッグ選びについて説いたもの。本当に必要なバッグの数、バッグの中身の整理の仕方、そしてそこから身も心も軽く生きる秘訣まで教えてくれています。これを読めば、究極のバッグだけでなく、自分らしい幸せもきっと見つけられるはず! ¥1100/講談社


後編「あなたのスタイルを探してみよう〜バッグ探しは自分探し〜」は
5月24日公開予定です。お楽しみに!


取材・文/山本奈緒子 構成・写真/大森葉子(編集部)