心豊かに暮らすために、ムダをできる限り削ぎ落す——、そんな「シンプルライフ」を提唱しているドミニック・ローホーさん。前編ではドミニックさんのシンプルライフが確立するまでと、シンプルライフの良さについて詳しくお話しいただきました。
シンプルライフとは人それぞれ違うもの。ですから自分にとってなにが“必要”かを知らなければ、手に入らないものです。ではどうすれば自分の“必要”を知ることができるのでしょう? その鍵は、私たちにとってもっとも身近なモノの一つであるバッグにありました! そこで後編では、自分だけのシンプルライフを手に入れるためのバッグ選びについて、お伝えいたします。
ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。様々な国に移り住む中で、モノを持たず豊かに暮らす「シンプルライフ」を確立。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)がベストセラーに。他に『シンプルリスト』、『99の持ちもので、シンプルに心かるく生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅寺や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。
バッグ選びとパートナー選びは同じ
バッグとは自分の本質。その中に入れるものには自分自身が表れています。だから本当なら、中身にもピッタリなバッグを選ばなければならないもの。でも多くの人は逆になっている、とドミニックさんは言います。
「皆、バッグに中身を合わせているのです。このブランドだから、このデザインがかわいいからと、先にバッグを選んで、自分が入れたいものが上手く入らなくてイライラし、また新しいバッグを買ってしまっている。……こう考えてみてください。バッグ選びはパートナー選びと一緒だ、と。自分にぴったり合ったパートナーなら、ずっと一緒にいても心地がいいし、大きさや革の質、ポケットの位置など長くいればいるほど愛着が沸きますよね。でも外見だけで選ぶと心地が悪かったり、すぐ飽きてしまう。それと同じで、バッグも本当に自分に合うものを選べば、自分らしくいられて心が落ち着くんです」
バッグ選びは自分のスタイルを書き出すことから始まる
では、そんな自分にピッタリのバッグを見つける方法とは? 最大のポイントは、「自分とはどんな人間か」を知ることにあると言います。
「いきなりバッグを探すのではなく、まず自分のスタイルがどういうものか、ここを固めてから探すことが大事です。たとえば色なら黒だとか、街で表すならこの街、映画なら、音楽なら……と全部書き出してみるといい。それらを総合して見るうちに、自分のスタイルというものが見えてきます。そこで初めて、『こんなバッグがあればピッタリだわ!』と、自分らしいバッグがどういうものか気づけるんです。私はよく、街行く人のバッグを観察しているのですが、これもオススメですよ。とても似合ったバッグを持っている人、若いのに不釣り合いに高級なバッグを持っている人……、そうやって観察していると『自分らしいバッグとは?』というのが何となく分かってくるんです」
自分のスタイルとは本来は1つですが、最初はなかなか1つに絞りきれないもの。その場合は、「2、3パターン作ってもかまわない」と言います。そうしているうちに、最終的に「私らしいのはこのスタイルだな」という1つが見えてくるそう。
「実際にバッグ探しを始めるのは、そこが固まってから。ここでも探し方のコツがあります。まずは、バッグの形を考えて。自分が快適でいられるのはリュックか、ポーチか、ポシェットか、と。そしてサイズは? ポケットの数は? 仕切りは? 開口部の作りは?……と、細部まで妥協なく追求してほしいのです。いくら条件にピッタリのバッグでも、ネットや通信販売で見つけるのは絶対にダメ。必ず触れて、持って、五感でも感じてください。また中身を実際に移してみて、本当に使いやすいかどうかも確認することです」
しっくりきていないバッグは持ち続けない!?
「これだ!」と思って買ったものの、もし「違う」と感じたら「持ち続けてはいけない」とドミニックさんは言います。
「必ず処分すること。失敗したものを持ち続けるというのは、自分を否定する行為ですから。どうしてもピッタリな1つが見つからなければ、素材と縫製に間違いのないクラシカルな形の黒の革か帆布のバッグを買って。それを使っているうちに、『もっと小さくていいわ』とか『もっとポケットが欲しいわ』と、理想のバッグへ近づいていけますから。ちなみに私はニューヨークにいたとき、理想のバッグが見つからなくて、バッグは持たず、コートのポケットをバッグ代わりに3ヶ月間過ごしたことがあります。それぐらい、自分にピッタリのバッグを見つけるのは大変なこと。その代わり出会えたら、もうバッグを探す時間は必要なくなりますし、自分らしいものと一緒にいる、という自信が持てるようになるんです」
バッグの中には、自分の“必要”が詰まっている
またバッグ選びと同時に絶対にやってほしいのが、バッグの中身を吟味することだそう。
「バッグとは、小さな自分の部屋のようなもの。その中には、自分の必要が全部詰まっています。お金、携帯電話、化粧ポーチ、手帳、本、薬……。とはいえ、部屋のものを全て持ち歩くのは無理ですから、できる限り軽量化しなければなりません。皆さんには是非、その“必要”を絞る作業をおこなってもらいたいと思うのです。なぜならそれも、自分を知る勉強になるから」
だからといって、決して“必要”だけを追求した無味乾燥な中身にする必要はありません。「楽しみながら、中身を整理してほしい」とドミニックさんは言います。
「私はいつも、手帳とお財布、鍵、携帯電話、メガネケースに入ったメガネ、サングラス、リップ、ハンカチ、ティッシュ、裁縫セットと、自分にとって必要なものをすべて持ち歩いています。私のバッグは横25cm×縦15cm×マチ6cmサイズの小さなものですが、ちゃんと入りますよ。なぜなら手帳は手のひらサイズ並みに小さいし、お財布もお札を半分に折ったくらいの大きさだから。手帳はスケジュール管理に付箋を利用したりし、私はポイントカードを一切持たないので、お財布もこの大きさで充分なんです。メガネケースも裁縫セットも、小さいものを入れています。そうやってバッグにジャストサイズに入るものを探すのもまた楽しいんですよ」
一方で鍵には、カラフルでかわいらしい鈴が着けられていました。鍵だけで持っているほうが場所を取らないのに、なぜわざわざ鈴を着けているのでしょう? 実はこれには理由があって、色と音がある鈴を付けることで、鍵をすぐに見つけられるようにしているのだそう。ドミニックさんのバッグの中身は、ただ機能性を追求しているだけでなく、遊び心も詰まっているのです。
「自分だけのバッグが見つかる」は、
自分がどういう人間か気づくこと
「自分の部屋に自分の世界観が表れているように、小さな部屋でもあるバッグは、ただ荷物を運ぶものでは決してなくて、自分の世界を持ち歩くモノでもあります。だから“必要”だけでなく、工夫して楽しみながら整理してほしいのです。バッグとは自分のセンスとスタイルそのもの。バッグに吟味したものだけをコンパクトに収められたら、私たちは旅人のように身も心も軽く過ごすことができるのですよ」
自分だけのバッグが見つかるということは、自分がどういう人間か分かるということ。何があれば幸せで心地いいのか、あるいは何が不必要なのか……。そうしてそれが分かれば、バッグだけでなく日々の生活においても、最小限のモノで豊かに暮らすというシンプルライフを手に入れることができるのです。
「もちろんモノをコントロールするということは、自分をコントロールすることでもありますから、簡単なことではありません。でもそれによって得られる心の自由と時間のゆとりは、計り知れないもの。だから私は自分が死ぬとき、持ち物はこのバッグだけ、というのが理想なんです。皆さんも是非そんなふうに、『この先自分はどんな人生を送りたいか』をイメージしながら、究極のマイバッグを見つけてください」
新刊コラム●
『マイバッグ 3つのバッグで軽く美しく生きる』ドミニック・ローホー 著 赤松梨恵 訳
自分にとっての理想のバッグを見つけることは、自分がどう生きたいかを見つけることでもある——。大ベストセラー『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)で知られるドミニック・ローホーさんの最新刊は、人生を豊かにするために欠かせないアイテムであるバッグ選びについて説いたもの。本当に必要なバッグの数、バッグの中身の整理の仕方、そしてそこから身も心も軽く生きる秘訣まで教えてくれています。これを読めば、究極のバッグだけでなく、自分らしい幸せもきっと見つけられるはず! ¥1100/講談社
取材・文/山本奈緒子 構成・写真/大森葉子(編集部)
Comment