ブログ「madame Hのバラ色の人生」が大人気で、ミモレのスナップに登場したときは、それまでにない反響を呼び、昨年には初の著書を出版。今年の4月にも2冊の本を上梓。アパレルデザイナーとして長年活躍し、現在は価値ある服を再生させるお直しサロンを経営、そのかたわらでトークサロンの講師も務めている。それが世界でいちばんおしゃれで面白い70歳、佐藤治子さん。通称“madame H”。彼女が多くの人から支持されている理由のひとつ、「自分らしいおしゃれ」の楽しみ方、そして決して「バラ色」なだけではない人生のこと、とことん聞いてきました。


佐藤治子(さとう・はるこ)
1947年、群馬県桐生市生まれ。服飾専門学校を卒業後、アパレル業界へ。パタンナーとしてキャリアをスタートし、その後デザイナーに転身。英国ブランド「アクアスキュータム」「イエーガー」などでデザイナー、ディレクターとして活躍。2011年からは価値ある服を再生させるお直しサロン「REMODE」のオーナーに。プライベートでは、31歳のときにシングルマザーとなり、43歳のときにブログや書籍に“ムッシュ”の愛称で登場するヘアスタイリストの満さんと結婚。著書に『普通の服を、はっとするほどキレイに着る』(宝島社)、『スーツケースの中身は旅で決まる』(小石川書館)など。会員制トークサロン「What is my Style?」(夜間飛行主催)で講師を務めている。


似合うものを見つけるには試着あるのみ

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ラルフローレンのジャケットに合わせたロンドンストライプのリネンシャツはドゥーズィエムクラスのもの。定番のテーパードパンツはコントワー・デ・コトニエ、靴はロジェ・ヴィヴィエのもの。

――今年でブログを始めてから丸6年。書籍も出して、ますますファンが増えていますが、その実感はありますか?
「始めたときは、私のブログなんて見て、みんな楽しいのかしら? と思っていたんですが、毎朝8時にブログをあげると、1時間のうちに2000くらいアクセスがあるんです。『ブログを読んで元気になった』『買い物したくなった!』なんて声をいただくと、少しは人のためになっているのかなと。先日、古希のお祝いで着るために買ったH&Mの赤いレースワンピースをブログに上げたんです。それを見て、ドイツに住んでいる読者の方がドイツのH&Mに買いに行ったんですって。私が日本で発信したことを同時にドイツで見て、同じものを世界中で気軽に共有できる。すごくいい時代になりましたよね」

――アパレルデザイナーを長年されていて、いいものを知り尽くしているマダムがファストファッションも着ていることが意外でした。
「いいものを探す楽しみがあるのがファストファッション。それをハイ&ローで着こなせばいいの。勘違いしている人が多いんだけど、ハイ&ローというのは、一見どれがローなのかわからない着こなしのこと。バッグだけ高いものを持って、あとはぺらっぺらな服を着ているのは一点豪華主義。間違えないでね」

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「リネンシャツは、値段による品質の差が顕著に表れるアイテム。多少値が張っても上質なものを選べば、洗濯を繰り返しても、くたびれずに長持ちします」

――ファストファッションに限らず、あらゆる服の中から似合うものを探すのは難しいものです。マダムのように“目利き”になるにはどうしたらいいでしょうか。
「大切なのは自分の軸を作ること。私もいろいろな洋服を着ては脱ぎ捨ててのトライ&エラーを繰り返していました。そんな中で、着たときの直感で『いつもよりおしゃれに見える』『着心地がいい』『自分らしい』と思えたものが、自分に似合うもの。その感覚に出会うまで試してみることが、自分の軸を作るためには必要なんです。いろんなものに挑戦した経験のない人は、ずっと迷うんですよ。たとえて言うなら、若いときに恋愛ひとつしてこなかった人が結婚して年を重ねてから急に恋に走っちゃうような(笑)。ただ、“流行ってるから”“みんなが着てるから”という理由だけで選んでいては、いつまでも軸ができません。流行のもの、通常なら自分が手に取らないもの、お店で地味に佇んでいるもの、なんでも試してみて、似合うという感覚を探してください」


仕事服は有能に見せるための“コスプレ”

――流行アイテムは至るところで見かけるから、着たくなるんですよね。
「トレンドを着たからといって、誰でもおしゃれに見えるわけでもないのにね。でも、そう思えてしまうから、流行モノって危険。とはいえ、着てはいけないわけではなくて、似合っていればいいの。今季のよく見かけるオフショルダー。たとえば単純に、体型に合っていれば着たっていい。肩がしっかりしていて、体に厚みがある人には似合うけど、なで肩の人はダメね。流行って繰り返すものだから、自分に似合う流行が出てきたら手に取ればいい。デザイナーをしていたとき、店頭に立つこともあって、お客様に似合うなと思うものをすすめると、『同じようなものを持ってます』って言われることが多かった。そう返されるたびに、“似合うものがわかっているなら、同じような形、同じような色を買えばいいのに、って思ってたんです。似合うものがわかっているのに、わざわざ似合わないものを買う必要はないんです。私の場合、面長だからトップスはシャツか丸首のものしか似合わない。雰囲気を変えようとVネックを買ってもしっくりこないから、結局着ないの。同じく丸首でも、素材や袖の長さが違うものを選べば、表情も変わってくるでしょ。すべての形や色を自分のクローゼットに揃えておく必要はなくて、自分に似合うものだけを追い求めればいい。それが自分のスタイルになるんです」

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「さらっとした肌触りで、一日中履いていてもシワになりにくいウール100%のパンツ。春夏モノで見つけるのは困難を極めましたが、久しぶりに立ち寄ったコントワー・デ・コトニエで発見しました!」

――その考えが、マダムが著書で書かれている“制服”につながるんですね。
「そうね。みんなバリエーションを増やしたがるけれど、まずは自分にいちばん似合うものを考える。“あると便利”を理由にいろいろと買い足す人がいるけれど、“あると便利”はない! 選択肢が増えれば迷うだけだし、自分の軸もできない。自分に似合う色、似合うシルエットの選び抜かれた服を“制服”に決めると、迷うこともないし、タンスの肥やしになる余計なものを買うこともなくなりますよ」

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「毎年2足ずつくらい買い足しているロジェ・ヴィヴィエの靴。『同じような靴ばかり何足も持ってどうするの?』と言われますが、コレクションしてうっとりと眺めていたいんです」

――似合わないものは、やはり着ないほうがいいんですよね。
「どうしても好きなら着ていいと思いますよ。私は刺しゅうものが大好きだけど、本当に似合わなくて(笑)。でも、好きなものはリゾート限定で着ていますよ。オフの時間なら、似合う似合わない関係なく、そのシチュエーションにふさわしいものなら、好きなものを着てもいいと思うの。でも、仕事の場では、“好き”よりも“似合う”を優先したほうが魅力的に見えるし、オフィスの雰囲気と調和がとれたファッションをしているほうがスマートですよね。それは私がいたアパレル業界でも、どんな職種でも同じこと。仕事服は有能に見せるための“コスプレ”。それを念頭において、仕事とプライベートで、ファッションをきっちりわけたほうが、私は楽しいと思うな。最近は全体的にカジュアルになってきて、仕事もプライベートも境がない人が多いけど、いつも同じじゃ、面白くないじゃない? せっかく週末に出かけるなら、仕事のときとは違うファッションにしたほうが気分も変わるでしょ?」

 

madameH流、迷わない“制服”の作り方

マダムらしいおしゃれの秘密は、似合うシルエット、似合う色だけで構成された“制服”にあり。“制服”の要になる色使いのコツを教えてもらいました。

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取材日のコーディネートも、色はマダムの“制服”カラーの紺と白、“制服”アイテムのシャツとテーパードパンツという徹底したスタイル。ともすると生真面目に見えてしまう紺には、マゼンダピンクのようなはっとする色をプラスするそう。

「まずは基本になるメインカラーを決めること。大きく分けて、黒、紺、ベージュの3タイプからひとつ自分に合う色を選んで。今、ご自身のクローゼットをのぞいてみて、黒やグレーなど無彩色が多ければ黒、紺やブルー系ばかりなら紺、ブラウンやベージュの柔らかな色が目についたらベージュ。3色とも持っている必要はないんです。似合う色だけあればいいの」

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紺と白の基本カラーへの差し色として使っているマゼンダピンクのニットはZARAのもの。「一枚でニットとして着たら絶対に似合わない色なんだけど、ポイントで肩にかけるならいいでしょ?」

「メインカラー以外には白が不可欠。真っ白を躊躇して、アイボリーや生成りを選ぶ人が多いけれど、実は柔らかな色のほうが肌とのバランスが難しい。思い切って眩しいくらいのクリアな白を着てみて。レフ版効果で若々しく元気に見えるはず。2色に加えて、自分が着てみたいなと興味を持った色を小物などで少しだけ取り入れます。色にしてもシルエットにしても、似合うかどうかを見極めるには試着あるのみ。そのうち、はっとするほど自分がキレイに見えるアイテムや色に出会えるはず。パーソナルカラー診断なんていうものもあるけれど、色の発色は素材によって千差万別。同じネイビーだとしても、ウールだと似合わないけれど、シルクの光沢感があれば似合う、ということだってあるので診断だけで自分に似合う色を決めてしまうのはおすすめしません」


Vol.2では、“制服”を作る発端になった人生の転機、20年後、30年後に楽しい人生を送るための40代の過ごし方について伺っています。お楽しみに。
 

<新刊紹介>

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『madameHのバラ色の人生』

佐藤治子 著 ¥1300(税別) 宝島社

コーディネート写真を多数掲載したmadameHのスタイルブック。自身の“制服”に欠かせない私服アイテムの紹介や“ムッシュ”とのカップルコーディネート、自宅の写真やライフタイルに欠かせないお気に入りアイテムなど、プライベートを大公開。時代の先端を行く、若かりし頃のマダムの写真も必見。

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madame H のおしゃれ図鑑

佐藤治子 著 ¥1300(税別) KADOKAWA

自分らしい“制服”を作るための方法を、イラストとともに綴った、著者4冊目のファッションエッセイ本。ワードローブのメンテナンス術、洋服を賢く選ぶための素材のミニ知識など、多角的にファッションを紐解いた一冊に。madame Hのイメージソースになっている映画やファッションアイコンの紹介も。


後編は6月7日(水)公開予定です。お楽しみに!


撮影/目黒智子  取材・文/幸山梨奈  構成/大森葉子(編集部)