映画 『ボンジュール、アン』〜ソフィア・コッポラの母エレノア初の長編作品は、旅する気分で楽しみたい“道草”ムービー_img0
 

『ボンジュール、アン』
監督:エレノア・コッポラ
出演:ダイアン・レイン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィン
配給:東北新社 東北新社 7月7日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開
©the photographer Eric Caro


夫はフランシス・フォード・コッポラ、娘はソフィア。映画一家をサポートしながら、家族が撮る映画の舞台裏を追いかけるドキュメンタリーを監督してきたエレノア・コッポラ。80歳を迎えて長編劇映画デビューを果たした作品が『ボンジュール、アン』です。彼女自身の経験をもとにしたというこの物語には、成熟しているのに軽やかで、品と清潔感あふれるチャーミングな魅力がたっぷりつまっています。

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主人公のアンの夫はいつも多忙で、暮らしのことはすべて妻任せの映画プロデューサー。アンはひょんなことから彼の仕事仲間のフランス人男性、ジャックとともにカンヌからパリへと車で向かうことになります。合理主義の夫と違い、ジャックはのんびりお気楽モード。美しい風景に目をとめ、ユニークなセンスで観光名所についてガイドをして、ワインとおいしいものに目がない……、つまりは人生を楽しむ達人! おしゃべりが上手すぎて何だか信用できない雰囲気を醸し出す瞬間もあるのですが(笑)、旅の相棒としては最高の男性かもしれません。友人と経営していたブティックを閉め、愛情をかけて育ててきた子供たちも成長して、ちょっぴり寂しさを感じているアン。彼女はこの旅を通して久しぶりに、「私が好きなことって何だったっけ?」というシンプルな問いと向き合います。

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アンはいつも小さなカメラを持っていてパチリとシャッターを切るたびにとても楽しそうで、風景や食卓の切り取り方にもオリジナリティがあります。夫は妻の写真には興味がなさそうだけれどジャックは当たり前のように関心を寄せ、織物が好きな彼女をフットワーク軽く博物館へと誘ってくれる。ロマンスの香りを漂わせながらも、エレノア監督が描き出しているのは、妻でも母でもないただの“アン”が、自分のスタイルでもう一度人生を楽しもうと思えるまでの過程です。旅先での特別な時間や、束の間でも確かに芽生えた連帯感が背中を押してくれる物語に、ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』とも近しいものを感じました。ダイアン・レインのリゾートファッションや、サント・マドレーヌ大聖堂などの名所めぐりも楽しい大人の道草ムービー。アンと一緒に旅する気分で楽しんでみてはいかがでしょうか?

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PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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