22歳のとき単身アメリカに渡り、29歳で独立してからは、フリーライターとして活躍してきた佐久間裕美子さん。前回のインタビューでは、若い頃は自分の居場所を見つけられずもがき続けていた話をしてくれましたが、後編では女性としての“もがき”についても伺ってみました。結婚、離婚を経て、元夫を亡くすという壮絶な経験を経てきた今の心境、そして人生の後半に入ったこれからをどう生きるか……。私たちも取り入れたい! と思うお話をたくさん聞くことができました。

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佐久間 裕美子/1973年生まれ。ライター。慶應大学卒業後、イェール大学大学院で修士号取得。その後NYに移り、新聞社、出版社、通信社勤務を経てフリーライターになり、2012年にウェブマガジン『PERISCOPE』を立ち上げた他、アル・ゴア元副大統領からウディ・アレンまで、多数の著名人にインタビューをおこなってきた。主な著書に『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)。プライベートでは結婚・離婚をしており、その後元夫を亡くすという経験をしている。


 結婚したのは26歳のときです。彼はイタリア系アメリカ人で、冒険が大好きなタイプ。私も楽しいことに貪欲な人間だったので、あっという間に惹かれ合って結婚したのですが、そんな二人だからいつしか足並みが揃わなくなって。彼はお酒ばかり飲んでいるし、私は私で仕事にのめり込んで部屋にこもってばかりいる、そんな典型的な“すれ違い”状態でした。

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 離婚を決意したのは結婚して5年後。ちょうど2004年の大統領選挙の日でした。私はその日、長期の日本滞在から久しぶりにアメリカに帰ってきたというのに、ブッシュが勝つかケリーが勝つか、テレビにくぎ付けになってしまったんです。その後彼から「君は夫婦生活より大統領選挙が大事なのか」という手紙をもらって。ズレが決定的になったことに気がついて、私から別れを切り出したんです。


11年たってようやく
離婚時に逃げた感情と向き合えるように……

 私はこらえ性がない性格ですし、当時は、「頑張れば修正できる」とは思えなかった。その後も、「あのまま続けていたら」とは考えたくなくて、その選択肢はなかったことにしてきました。でも離婚から11年。彼とは時々連絡は取り合ってはいたのですが、ある日突然彼が亡くなってしまって。
その後は後悔や否定、怒り……、本当に様々な感情に襲われました。そんな喪失の感情プロセスを経て、最近ようやく、「別れた後も、もうちょっと良い友達でいられたんじゃないか。でもしなかった」という思いから逃げなくなったというか……。離婚したとはいっても、10年近く人生を共にした人。やはり自分のアイデンティティの一部になっている人ですから、彼に対する感情ときちんと向き合うことが、今私が彼に対してできる唯一のことかな、と思っているんです。

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 その後も恋愛はたくさんしてきましたけど、結婚という形には疑問を持っています。やはり離婚はものすごくエネルギーを消耗しますし、何より「また大切な人を失くしたら……」という恐怖心もありますから。もうちょっと歳をとったら気持ちが変わることもあるかもしれませんが。


常に相手を思いやれるぐらい大人にならないと
結婚はするものじゃないと気付いた

 離婚直後は、一人になって糸の切れたタコのように、自由な気持ちになったのは事実です。結婚していたときは、出張が続くとやはり嫌な顔をされることもあったし、私自身、付き合う=行動制限をかけなくてはいけない、という思い込みもありましたから。
 私自身、結婚に向いていないと思うこともあります。私は何かに夢中になると、電話一本すらかけなくなるようなところがあるから。一ヶ月以上かけて、全米を車で旅する取材をおこなったことがあるんですね。そのとき私は仕事に専念したかったし、当時のボーイフレンドに対しても「連絡しなきゃ」という義務感を持ちたくなかったから、1回ぐらいしか電話をかけなかったんです。でも一緒に回っていたフォトグラファーの女性は毎日連絡していて、私に「少なすぎない!?」とビックリしていました。なるほど、こんなふうに相手を思いやれるのが結婚なのか、と思ったのを覚えていますね。いつも相手の存在を思いやることができて初めて、結婚はするものなのかもしれませんね……。
 

40代になってようやく
自分の攻略法を見つけた気がする。

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 ただそれだけ夢中になれるものがあるということは、とても幸せなことだとも思っています。やはり40代も過ぎてくると、やりたいことを見つけるのも難しくなってくるじゃないですか。
 私は若い頃、「死ぬまでにインタビューしたい人リスト」を常に持っていたんです。ところがそれが達成できてしまったとき、燃え尽き症候群に陥ってしまって。『PERISCOPE』のIPad版を作った後、本当に何もやる気が起きなくて、ベッドからも出られないような状態になったこともありました。
 その経験を経て気づいたのは、何をするにしても常に「これでいいのか?」と、日常的に自分の精神状態に気を配ることの重要性です。とくに40代になると、人生の後半に突入しますから、今まで以上に頻繁に「これで良かったのかな?」という思いが頭をもたげてくると思うんですよ。だから今は、“自問”をとても大事にしています。
でも“自問”って、癖になるとけっこう面白いんですよ。「最近の私は遊びが足りてないんじゃないか?」「そうだね、遊んでいいよ」なんて自答したり(笑)。まあ私の自問自答は9割がこのパターンなんですけど、けっこう心に余裕が持てるようになるのでお薦めです。


やり過ごし方を覚えた
“悪魔との対話”

 もちろん、「ずっとシングルで、いつまで生き抜けるか……」という自問もしょっちゅう出てきますよ。特に生理前とか。私はこれを“悪魔との対話”と呼んでるんですけど、そんなときはもう、逃げずにとことん落ち込み倒すことにしています。悲しい音楽をかけて、ウィスキーを飲んで……(笑)。そうすると朝起きたら、スッキリはしていないけど、とりあえず悪魔は去っているんです。そうやってやり過ごす、という感じですね。時間がたてば“悪魔”は自然といなくなることも分かってきましたから。
30代の頃はそれが分かっていなくて目を逸らして、自分の中に膿をどんどん溜めてしまっていたんですよね。それどころか、膿が溜まっている自覚すらなかったかもしれません。
40代ともなるといろいろな経験を経てきますから、そういう自分の攻略法が分かってくる。それは歳を重ねることの良いところですよね。


mi-mollet世代にとって一番難しいのは
フレキシブルでいることだと思う。

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 一方で、好奇心を持ち続けるということが難しくなってくる世代であるのもたしか。私は冒険や刺激がないと抜け殻のようになってしまう人間なので、好奇心を持てる場が減ってくることが、今の一番の恐怖です。
たとえば私は音楽が好きでしょっちゅうライブに行くんですけど、そういう場でも、ハタと気がつくと自分が一番年上だったりするんですよ。そこでつい、「もう歳だからこういう場に来ちゃいけないのかな」と行動制限をかけそうになるんですけど、そこはもっとフレキシブルにというか、軽やかに「いいじゃん!」と振る舞いたいなと思っています。


いつまで今の勢いで走れるか分からないからこそ
今まで以上に「めいっぱい」生きたい。

 とは言ってみたものの、44歳になった今もやりたいことは山のようにあります。でもこの年齢になってくると、体を壊すリスクも増えてくるし、“先”というものも見えてくるじゃないですか。だからこそ今は、今まで以上に「めいっぱい生きる」のが目標。行きたいところは、グズグズしていないで旅しないとな、と思っています。いつまでこの勢いで走れるか分かりませんから。
 ただ一方で、走りながらもメンテナンスを怠ってはいけないな、と痛感しています。食事に気を付けるとか、きちんと運動をするとか。30代は気力で乗り越えてこられましたけど、これからはそうはいきませんよね。

 余談ですが、私は3年前にスキーで大ケガをしたんです。足を3箇所も骨折して、半年間も自力で歩けない、という状態に陥ってしまったんですよ。そのときに痛感したのが、「女友達ってありがたいなー」ということ。私の知らないうちに連絡を取り合って、代わる代わるやってきてご飯や掃除を手伝ってくれたんです。そのとき付き合っていた彼も、手伝ってはくれるんだけど、どうしてもかゆいところに手が届かない(笑)。やはり、持つべきものは女友達だとつくづく思いましたね!

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新刊紹介>
『ピンヒールははかない』
佐久間裕美子 著 ¥1200(税抜) 幻冬舎


結婚、離婚を経てシングルとなった著者が、大都会・ニューヨークで、もがきながらも自身のアイデンティティと向き合い「めいっぱい生きる」様が伝わってくるエッセイ集。シングルとして生きることの自由と責任、トランプが大統領に選ばれた日の女性としての考察、40代になった今とこれからへの思いなどを綴っている。同じ女性として、mi-mollet世代として、のめり込まずして読むことはできない1冊!


撮影/目黒智子 取材・文/山本奈緒子 構成/大森葉子(編集部)