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ちょっと立ち止まって自分の「好き」を
掘り下げてみることが大事 by 望月律子

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ファッションのカジュアル化が進む中でも、どこか女性らしさと品を感じさせるスタイリングが人気の望月律子さん。数々の女性ファッション誌で活躍する望月さんのストイックなまでのスタイリングに対する思い、そして今日から実践できるおしゃれ心の磨き方まで、大公開していただきました。

カーキやベージュ好きの渋好みな中学生でした

インタビュー当日も望月さんのコーディネートがこちら。カジュアルな中に、シャツの着こなしや華奢なヒールで女性らしさを感じさせるスタイリングでした。

小さい頃から渋好みだったんです。子供の頃、自分のプロフィールなどを書いて交換するサイン帳ってありましたよね。好きな色の項目に、ピンクや赤じゃなくて紫と書いていたし、中学生の頃、塾に行くときに、カーキとベージュでコーディネートして、母に「若いのに渋いわね~」と言われたのをよく覚えています。実際に今日着ているパンツもカーキですし、根本的な好みはあの頃から変わっていないんだと思います。服はもちろん好きですが、それ以上に色合わせや素材合わせで素敵に見せることに当時から興味があり、スタイリストという仕事を思い描いていました。

実際にスタイリストになろうと動き出したのは、当時よく読んでいた雑誌『an・an』でスタイリストスクールを見つけたのがきっかけ。スクールに1年通い、その後、スタイリストアシスタントの派遣事務所に所属していました。派遣事務所ではミュージシャンやタレントのステージ衣装のスタイリングを手伝ったり、さまざまなスタイリストさんについて、いろいろな現場に行くことができて、本当に勉強になりました。でも、自分自身がアシスタントの仕事を器用にこなしていることに気づいたとき、このままではアシスタントのプロになってしまうかもしれない、と危機感を覚えたんです。それで派遣事務所を辞めて、師匠となる、スタイリストの大沼こずえ氏のアシスタントになりました。そこからは彼女のもとでファッション誌のスタイリングの仕事を教わり、私自身もファッション誌のスタイリストとして独立しました。
 

ファッションの感覚を磨くヒントは食事にあり!?

スタイリストとして仕事しながらつねに考えることは、ファッションで人を喜ばせたい、スタイリングを見てくれている方に、自分なりにファッションを楽しむ、アイテムを選び方やコーディネートの感覚を身につけられる提案をしたい、ということ。ただ倣うだけじゃなくて、感覚を掴めたら、服を着ることを、もっと楽しめるようになると思うんです。ファッションを楽しめなくなるときがあるという方に出会うことがあるんですが、それは追いかけるだけで、自分のスタイルができていないから。その感覚は、スタイリングから学ぶこともできますが、それ以外にもヒントは、さまざまなところにあるんです。

たとえば、お肉にフルーツのソースを添えた料理がありますよね。初めはお肉にフルーツ!? と訝しく思っても、食べてみるとおいしい。なぜおいしいと感じたんだろう、その意外性がファッションだったら何だろうと考えたり。思い込みを捨てて、枠から外れてみることの大切さを、そのひと皿から教わることができたんだと思います。私は、食べることが好きなので、サラダの盛り付けを見たり、器とのコンビネーションから学ぶことが多いんですが、食事以外にも、ヒントになることは街中に溢れています。たとえば、自分が可愛いと思ったショップカードがあったとして、どの部分に可愛さを感じたのかちょっと分析してみる。どんなことでも、自分がピンときたものに関して、少しだけ深く、その感覚を掘り下げてみると、自分の好きなものが少しずつ明確になってくる。好きという感覚はファッションの土台となる自分なりのベーシックを作るのに大切なんです。

「撮影などで難しいこともありますが、許されることならいつもヒールを履いていたい。ヒールを履いていると背筋も気持ちもピンとするところが好きなんです」

私自身、失敗を繰り返しながら、たどり着いたのは、服自体に女っぽさは求めていないけれど、着方やアクセ使いなどで、どこか女っぽさを感じさせる着こなしが好きだということ。だから、華奢なヒールの靴を合わせるのが好きなんです。色なら、子供の頃から変わらずカーキや紫(笑)、テイストならミリタリーに惹かれます。今、あげたように、変わらず好きなもの=マイベーシックはあるけれど、シーズンごとのトレンドも、必ずチャレンジ。そのときに考えるのは、ただ着るのではなくて、私らしく着るにはどうしたいいのか、ということ。いつもの自分のベーシックよりも、チャレンジしたスタイルを褒めてもらえると、成長しているのかなと思えて、うれしくなりますね。

「何度となく見返しているドラマ『SEX and the CITY』は、ファッションから人生まで女性のすべてが詰め込まれた作品だと思っています。ファッションは、ヴィンテージ使いなど今見ても参考になるポイントがいっぱい!」

最近は、若い世代も大人もトレンドにあまり違いがありません。でも、だからといって、誰もが同じように着るのがいいかといえば、そうではなくて。同じトレンドでも、年代やスタイル、テイストなどに合わせた、ベストな着こなしはある。そう思いながら、つねにスタイリングをしています。自由になったようで、難しくもなっていると感じるファッション。だからこそ、よりさまざまな手段で、楽しみ方を伝えていけたらと思い、機会があればスタイリングイベントなどもさせていただいていますし、インスタグラムも1年ほど前から始めました。雑誌ではなかなか難しかった、自分の言葉で直接伝えられる機会は大切だなと思いますし、生の声を聞けることは、その後の仕事にも参考になっています。

「35歳を過ぎた頃、パリでネックレスを買って以来、少しずつ買い足しているヴィンテージ。何十年も前のものでも、現代のコーディネートに違和感なくマッチする素晴らしいデザインが、ヴィンテージにはたくさんあるんです。レザーのバッグはロエベのヴィンテージですが、上質なレザーの風合いだけでロエベとわからせる、ロエベというブランドのすごさを改めて実感する機会にもなりました」
ジャーナルスタンダード レリュームで見つけた大ぶりのピアスが、この日のアクセサリー。カジュアルなデザインのピアスとは対照的に、口元は女っぽさを感じさせるマットな赤リップ。

考え抜く性格だから、落ち込むときは心底落ち込みます

ここまで読んでいただいてわかる通り、何事にも深く考え抜く性格(笑)。特に仕事をするときは、なぜ自分なのか、自分には何ができるのかを納得がいくまで考えてしまう。真面目、考えすぎと言われることがよくありますが(笑)、ちゃんと納得しないと進めないんです。だから落ち込むときも、心底落ち込みます。お酒飲んで、騒いで忘れよう、ができなくて、落ち込んだときは、家に帰ってじーっと考え続けてしまう(笑)。でも、悩み抜いたら、あとは行動に移すだけ。悩みの質は変わってきましたが、何年経っても、どれだけ仕事をしても、その繰り返し。キャリアや時間を重ねたところで、何もしなくても解決されることなんてないんですよね。でも、考え続けることで、私が愛しているファッションの面白さや魅力を、よりわかりやすく、皆さんに伝えていけたらいいなと思っています。

CRECDIT:
シャツ/MARLOTA
パンツ/ロンハーマン
ピアス/ジャーナルスタンダードレリューム
バッグ/フェンディ
靴/セルジオ ロッシ

撮影/最上裕美子 ヘア&メイク/桑野泰成(ilumini)構成・文/幸山梨奈