「世間体」という自らのエゴを利他精神で覆い隠す親たち

 

「個人化の時代」は、当事者だけでなく、その親の選択肢、意志の強さも多様化させました。「これからの時代、女性も大学で学んだ方がいい」「好きな職業に就いていい」「好きな人と結婚してね」、だけどその決定の際には私も関わるわ、あなたの幸せのために……。

しかも、今の若者の親世代は、まだまだ「世間体」から解放されてはいません。仮に娘の結婚が、世間一般で許容されないものであるならば、あるいは「親戚に顔向けできない」「近所にどう言えばいいのか」という類のものならば、その「結婚」にはNGを出す……。これは子への愛情と、自らの世間体が複雑に絡み合っているからこそ、厄介です。

 

「世間体」という自らのエゴと人からの評価を、「あなたのためを思えばこそ」という利他精神の隠れ蓑で覆ってしまう。

あくまで「我が子の幸せのために」の想いが成人したのちも子の独立を阻み、共依存を生んでしまっている日本だからこそ、大量の「パラサイト・シングル」を生み、その数十年後、さらに大量の「生涯未婚者」を生んでいる現実に、そろそろ私たちは気づくべきなのではないでしょうか。


●著者プロフィール
山田昌弘(やまだ まさひろ) さん

1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。主な著書に、『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会─「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(共に筑摩書房)、『少子社会日本─もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店)、『家族難民─中流と下流─二極化する日本人の老後』『底辺への競争─格差放置社会ニッポンの末路』『結婚不要社会』『新型格差社会』(すべて朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?─結婚・出産が回避される本当の原因』(光文社)など多数。

 

『パラサイト難婚社会』
著者:山田昌弘 朝日新書 990円(税込)

「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」という言葉を世に浸透させたことでも知られる社会学者の山田昌弘さんが、さまざまな社会問題と絡めつつ「難婚」の正体と課題を深く考察します。現代の結婚観が根付いた歴史的背景にも言及するなど、日本の結婚制度をあらゆる角度からひも解いているのが魅力で、そうやって俯瞰的に捉えることで、結婚への疑問や違和感が解消されるかもしれません。


写真:Shutterstock
構成/さくま健太