『こういう仕組みを気軽に使える世の中にならないと、女性の活躍なんて絶対に無理!』
手頃な価格で、依頼をする人と受ける人の双方にとって使い勝手のいい家事シェアリングシステム「タスカジ」を立ち上げた株式会社タスカジの和田幸子さん。
大手企業でのキャリアを捨て、ゼロからの起業に挑戦した和田さんは、
夫との関係性や、家族のあり方についてもさまざまな試行錯誤をしています。
人に何かをやってほしければ、
相手にきちんと伝えるべき
和田さんが「タスカジ」のサービスを開始するきっかけになったものの一つに、「家事が苦手」ということがありました。その自覚は結婚前からあったといいます。
「20代前半くらいから家事ができる人を選んで結婚しないと、自分が大変な目に遭うと考えていました。私は30歳で結婚したのですが、当時としては人より遅かったんです。だから、先に結婚した人から『子どもが生まれるとキャリアの継続が大変』『夫との役割分担がうまくいかず、喧嘩が絶えない』といった苦労話をたくさん聞いていて、耳年増のようになっていましたね(笑)」
和田さんの結婚相手は3歳年下の男性。当初の目論見とは異なり、家事ができる人ではなかったものの、何でも話し合いができ、何事にも一緒に取り組んでくれそうに感じられたことが、結婚への後押しになったそう。和田さんは、結婚や出産を経てもキャリアを積み重ねたいと考えており、富士通に在籍していた頃から、漠然とではあるもののいずれは起業し、ゼロから新たなことに挑戦してみたいと思っていたため、夫との協力体制は必要不可欠なものでした。
「私も夫も家事ができる方ではないからこそ、二人で一緒に頑張りましょう、というスタンスでいられたのかもしれませんね」
また、和田さんが富士通でシステムエンジニアとして働いていた頃、プロジェクトマネージャーとしてチームをまとめ上げるために、相手に言葉で伝えることの大切さを実感していたことも、結婚生活で役に立ったと振り返ります。
「人に何かをやってほしければ、相手にきちんと伝えなくてはいけないし、相手にとってどういうメリットがあるかも説明する必要もあります。だから、結婚後の家事分担についても、『私が仕事を頑張っている間にあなたが家事を負担してくれれば、私のキャリアアップにつながり、世帯収入を上げることができるはず。短期的には大変でデメリットかもしれないけど、将来的には二人の家族にとってプラスになるはず』というように、夫にきちんと説明し、理解を求めました」
和田さんが結婚した頃は、今よりも「男性は会社優先、女性は専業主婦として家を守る」風潮が強かったようですが、そんな中、周囲の“当たり前”とは異なる道を模索するのは大変だったのではないでしょうか?
「結婚したら将来どんな家族になっていくかなど、誰でも先のことを想像することがあると思うんですけど、将来は海外に住んでみたいとか、いろんな拠点を転々とする生活も楽しそうだとか、親世代が歩んできたのとは全く違う、新たな道を模索すること自体が『楽しいこと』なんだと考えるようにしていましたね」
インターネットがもたらした、
新しい助け合いのあり方。
和田さんは夫婦間で新たな家族像を模索し、実践し続けていますが、自身が立ち上げた「タスカジ」を通して、社会の中に新たな助け合いの姿を実現できればと考えています。
「昔は近所の人同士で助け合ったといいますが、今は地理的に近くなくてもインターネットで効率よく出会えるようになりました。また、時代の流れで核家族化が進んだ時期があったものの、再び助け合いの仕組みが戻りつつあると思うんです。その時、血縁関係にある身内とではなく、インターネットを介してつながった赤の他人とつながり、支え合う“拡大家族”が一般化すれば、新たな家族観が形成されるようになるのではないでしょうか」
インターネットがもたらすのは、人と人をつなげる以外にもたくさんあるという和田さん。「タスカジ」は、家事能力を身に付けた専業主婦の活躍の場としても注目を集めていますが、彼女たちのスキルの“見える化”もその一つだと言います。
「長年専業主婦だった方は、主婦の仕事自体がすごいキャリアになっているはずなのですが、評価されることはほとんどありません。でも、『タスカジ』ならレビューによって評価を得ることができます。自分でも気づいていなかったスキルを生かして世の中に貢献したり、経済的な自立を得たりすることができる仕組みも、インターネットによって実現できたことです」
近年、政府主導で「女性の活躍」や「働き方改革」が声高に叫ばれています。女性が社会で少しでも活躍しやすくなるためにと「タスカジ」を立ち上げ、自らも夫とともに家族のあり方を模索している和田さんは、近い将来、どんな世の中になってほしいと考えているのでしょうか?
「男女関係なしに、自分がやりたいと思ったことができる世の中になっているといいですよね。誰かが『自分が成長したい』『世の中に貢献したい』などと前向きな気持ちになった時、別のことに足を引っ張られたり、やりたいと思っていることとは違うところで時間を失ったりすることのないように、家事のサポートもその人にとっての選択肢の一つになりうると思うんです」
撮影/横山翔平(t.cube) 取材・文/吉川明子 構成/川端里恵(編集部)
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