『ラ・チャナ』 配給:アップリンク ©2016 Noon Films S.L. Radiotelevisión Española Bless Bless Productions

私は今、アルゼンチンタンゴのレッスンに通っているのですが、ミモレ世代の方のなかにはフラメンコを習っている人も多いのではないかと思います。今回紹介する『ラ・チャナ』はスペインのフラメンコダンサーの生涯を描いたドキュメンタリー。彼女の激しい踊りはもちろん、波乱続きの人生にも圧倒されてしまう作品です。

 

ラ・チャナは若い頃からフラメンコダンサーとして注目を集め、18歳で結婚、出産。妻になり、母になってからも活躍を続けてハリウッドにまで呼ばれるのですが、夫からの反対で断念。世界ツアーをまわるほど人気があったキャリアの頂点で一度は引退し、どん底を味わってから再びステージに立った人です。

『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』にも描かれていましたが、才能あふれる女性が夫からのDVによって押さえつけられてしまう悲劇って、なくならないものなんでしょうね。時代や社会にも要因があるとは思うけれど、夫の嫉妬もあるのかな…。でも幸せではないからこそ、彼女だけの表現が生まれたともいえると思うんです。抑圧や差別があるからこそ、ラ・チャナの踊りが情熱的で特別なものになったのかも、と思うと複雑な気持ちにもなりました。

 

若い頃にテレビの生放送で踊ったときの映像も流れるのですが、あの動きは、人間業じゃない!! あれほどまでに自分の世界に入り込むことができるなんて! と目が釘付けになっちゃいました。ある種の“ゾーン”に入り込める人だけが感じられるものがあって、それはきっと芝居に関しても同じなんだろうな、なんてことを思ったり。晩年には優しいパートナーに恵まれて穏やかな生活を送れるようになった彼女ですが、踊りはやっぱりものすごく激しいまま。ヒザを悪くしているラ・チャナが、椅子に座ったままステップを踏む姿に感動しました。タップを習ったときに椅子に座ってレッスンしたことあるのですが、有酸素運動でものすごくハードだったんですよね。それを年老いて万全のコンディションではない彼女がやっていると思うと、頂点に立つ人の凄みを感じました。

 

フラメンコに興味がある人はもちろん、“自分らしさ”について考えている人にも、おすすめしたい作品です。ありのままの自分でいられる時間を持てていますか? 打ち込める何かを持っていますか? というメッセージをぜひ受け止めてみてください。今年はスペインに行く予定があるので、その前にこのドキュメンタリーを観られてよかった! 現地の空気を感じられることが、さらに楽しみになりました。

 

『ラ・チャナ』
フラメンコダンサー、ラ・チャナ(本名アントニア・サンティアゴ・アマドール)は、若くして才能を開花させ、18歳でマネージャーの夫と結婚、出産する。その後ハリウッドに招かれるも、女性が自らの意見をいうことは許されない社会で、その夢はかなわなかった。テレビ出演や世界ツアーなど、キャリアの頂点を極めて活躍するラ・チャナ。が、ある日突然、表舞台から姿を消した。
男性社会で女性が活躍することの難しさ、家庭内暴力、そしてどん底からの復帰と老い。ラ・チャナの生き方が私たちに人生のあり方を問う。2018年7月21日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開